第46話 弟、食堂に行く

「なぁ、婚約者を募集しているのって本当か?」


 学園内の見学をしている間、フェルナンは俺の横にベッタリとくっついていた。


「本当だよ? それまでは俺の父さんが婚約者みたいな感じだし」


「えっと……それはどういうことだ?」


 簡単に言えば、お披露目会で婚約者ができなかった俺に父が婚約者代わりとして、礼儀を教えてくれている。


 中々この世界の礼儀は変わってはいるが、将来結婚するには必要なことだからな。


 ただ、いつも俺が女役なのは謎だ。


 まずは相手のことを見て、紳士な行動を学べと言われてきたが、何が紳士なのかもいまだにわかっていない。


 そもそもおっさんには覚えることがありすぎだ。


「ここが学園の食堂になります」


「うぉー、すげー!」


 生徒や先生の数が多いため、食堂は広々と場所が取られてある。


 新入生が気になっているのか、先輩達もチラチラとこっちを見ている。


「なぁ、一緒に食べようぜ」


「僕と?」


「ダミアン以外に誰がいるんだよ」


 ぼっち飯確定だと思っていたが、どうやらフェルナンが一緒に食べてくれるようだ。


 今のところ一番仲良い友達になるのはフェルナンな気がした。


 他の人達はどこか距離を置いている気がするしね。


 最悪、従者のクロと生活すれば問題ないが、学園に来てまで友達がいないって結構辛い。


 とりあえず一人にならなくて安心した。


「お腹減ったから早く行こう!」


「おっ、おう!」


 俺はフェルナンの手を持って引っ張った。


 学園の食堂はどこか定食屋のようになっており、好きなものを選んで食べる仕組みになっているようだ。


「なぁ、本当に食べるんか?」


「イモマッチョを美味しいよ?」


 俺は気づいたらイモマッチョばかり取っていた。


 好きなものばかりてんこ盛りになるのは仕方ないだろう。


 皿の上で白い奴らがウニョウニョと動いている。


「ヒイイイイ!?」


 どうやらフェルナンはイモマッチョをあまり食べないようだ。


 見た目が爽やかなイケメンになっても、中はまだゆるふわキュルルン系。


 そんなフェルナンとは違って俺は大人の階段を登ったってことだな。


 いや、この世界に来た時にはすでにおっさんだったか。


「中々席が空いてないね」


「みんなお昼時だからな」


「ダミアン!」


 俺が周囲をキョロキョロとしていると、どこからか俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「あっ、兄さん!」


 どうやら兄と姉は一緒に昼食を食べているらしい。


 先生と生徒が一緒にご飯を食べていても良いのだろうか?


 学園についた時に作戦会議を行うって言ってたのは、昼食のタイミングだったのか?


 兄も忙しいのだろう。


 俺とフェルナンは一緒のテーブルで食べることにした。


「ここでは先生と呼びなさい!」


 俺は兄にコツンと頭を軽く叩かれた。


「へへへ、ならオリヴァー先生だね」


 ニコリと微笑むと、なぜか兄が照れていた。


「ダミアン様、そういう時はダークウッド先生じゃないですか?」


 クロがボソッとアドバイスをしてくれたが、確かに普通なら名字で呼ぶのだろう。


 ただ、俺もダークウッドだからわかりづらい。


 ここはそのままオリヴァー先生にしておこう。


「ああ、それでそっちの男?」


「私にも紹介してもらおうかしら?」


 兄姉はフェルナンを睨むように見ていた。


 せっかくの友達が兄姉によって離れるのだけは避けたい。


「えーっと、フェルナンくんだよ。お披露目会でも一回会ってるんだ」


「ああ、あの時から狙っていたやつか」


「それは抹殺する必要があるようね」


「へー、俺に勝てるんですか?」


 中々物騒なことを言っているが、フェルナンは気にしていないようだ。


 普通に椅子に座り、昼食を食べていた。


 やはり鉄壁な心がないと、騎士にはなれないのだろう。


「はぁー、この家族視線が痛いな」


 それでも兄と姉からの目つきが悪い視線ビームにはうんざりしているようだ。

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