第47話 弟、ダンスの必要性を知る
「それで入学パーティーのダンスをどう逃げればいいかって話だよね?」
「ああ」
俺も一緒になって入学パーティーのダンスからどう逃げるかの作戦会議に参加した。
二人より三人の方がアイデアは出てくるからな。
「ダミアンは何で逃げようとしているんだ?」
さっきからフェルナンは耳をピクピクさせて聞いていた。
兄姉からの視線が痛くてこっちを見ようとしなかったフェルナンが、やっと話に入ってきた。
「ダンスが苦手だから逃げようと思ってね」
「はぁー」
俺の言葉に兄姉は大きくため息を吐いている。
今回はお披露目会ではないため、ダンスは強制的ではないはず。
なのになぜこんなに憂鬱になっているのか。
それは俺の爵位に関係していた。
基本的に貴族しかいないこの学園では、爵位が遵守されることが多い。
その一つにダンスが入っている。
お披露目会なら開催者が見本として行う。
ただ、入学パーティーのような場では爵位が高い人が見本として踊ることが一般的だ。
「公爵家の定めってやつか」
「たしかフェルナンも公爵家なんだよね?」
「ああ、そんなに嫌なら俺と踊るか?」
フェルナンとなら失敗しても、優しそうだから許してくれそうだ。
ただ、爽やかなチャラ男は女性達に人気だ。
きっといろんな人に誘われているだろう。
それに一緒に踊ったら逆に目立ってしまう気もする。
俺がダンスを踊れないことがバレてしまう。
「んー、やっぱり逃げる方向で――」
「たぶんそれは難しいと思うぞ。みんなの前であんなに大胆な発言をしたら、すでに広まっていると思うぞ」
さっきから視線がチラホラと、こっちに向いている気がするのはそういう意味だったのか。
みんなが優しくしてくれただけなのにね……?
「ダミアンはまた何かやらかしたのか?」
兄はクロを睨んで話すように命じた。
またやらかしたとはなんだろう。
俺は特に今までやらかしたと思うことはしたことないぞ。
基本頭で考えて演じているはずだ。
「ダミアン様は教室で婚約者募集中ですって言ってました」
「はぁん!?」
兄と姉の声が食堂の中を突き抜ける。
一瞬静かになるが、すぐに騒がしさが戻ってきた。
「おい、ダミアンどういうことだ?」
「そうよ、今すぐに話しなさい!」
俺が教室でした自己紹介のことを話すと、呆れた顔で二人は俺を見ていた。
「父様の努力も一瞬にして無駄になってるわね」
「父様?」
「あなたは気にしなくて良いのよ」
どうやら俺は知らぬ間にやらかしてしまったらしい。
俺にも早く婚約者が欲しかったから仕方ない。
将来独り身なのはどうしても避けたい。
だって、前世の俺も家庭を築けずにこの世界に来たからね。
俺が婚約者募集を宣言したことと、ダンスはどう関係するのだろうか。
俺はそれが気になって聞くと、今度はクロも含めて四人が大きなため息を吐いていた。
「婚約者を募集している人とのダンスで重要なのは、相性を確かめることなんだ」
「相性?」
「ああ、ダンスってお互いの動きが合わないとうまく踊れないだろ? それはお互いが合わせようとする、すなわちお互いが歩み寄ることができるかを見ているんだ」
思ったよりもダンスが重要な役割を持っていることを、俺はここで知ることになった。
だから幼い頃からダンスの練習が多かったのか。
確かにお互いが歩み寄れないなら、夫婦生活はうまくはいかないだろう。
そこまで相性が悪ければ、それすらも上手くできないという判断らしい。
「それなら兄さんと姉さんは僕と相性が良いってことだね。あっ、クロもそれに当てはまるのか!」
ダンスの練習をしていたのは、ほとんどここにいる三人だ。
特にクロと踊る時は一番上手く踊れている気がする。
気を使わない関係って踊りやすいからな。
「ねぇ、兄様? 会わない間にダミアンの魅力が爆発してないかしら」
「ああ、俺も一瞬この場で抱きたくなったよ」
そんなに兄は俺とハグがしたいのだろうか。
さすがに食堂ではハグができないため、俺は兄の肩を優しく撫でておいた。
なぜか兄だけ時間が止まっている気がしたが、気のせいだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます