第40話 腐人、私はだれ? ※視聴者視点?

 気づいたら私はベッドの上で寝ていた。


 記憶を遡るとなんとなくあの変な男に刺されたことを思い出した。


「お嬢様おはようございます」


 声がする方に目を向けると、メイドがカーテンを開けていた。


「お嬢様……?」


 何を言っているのだろうか。


 私は貴腐人であっても本当の貴族ではない。


 お嬢様と呼ばれる人物ではないはず。


 それにここは病院――。


 いや、病院ならこんな家具や部屋ではないはず。


 周囲を見渡すほど自分がどこにいるのか不安になってきた。


「やはり突然のことで不安になっているんですね」


 私はとりあえず頷いた。


 まずは話を合わせて、状況確認が大事だろう。


「すみません、身支度をしたいので鏡を用意してもらっても良いですか?」


 メイドは近くにあった手鏡を手に取り、私に渡してきた。


「お嬢様どうぞ」


「ありがとうございます」


 私は自分の顔を見て驚いた。


 まだまだ、華やかさはなく素朴な顔をしているが、見慣れた人物なのは間違いない。


「今日からお嬢様はフラワー子爵家の令嬢として生活してもらいます」


 メイドの一言で色んなピースがカチッとはまった気がした。


――フラワー子爵家の令嬢


 それは"絶望のノクターン"に出てくるメインヒロインだった。


 唯一、王子からキラキラな眼差しを向けられ、悪役令嬢であるイザベラから婚約者である殿下を奪うヒロイン。


 そして、私が一番嫌いなキャラクターに転生していた。


「なんでよ……なんで私が!」


「お嬢様落ち着いてください。お嬢様にはまだ現当主のライラック様がいます。家族はお母様だけじゃないんですよ」


 そういえばヒロインは母親と二人で暮らしていたはず。


 何かの病気で亡くなったという描写があったはず。


 家族がいなくなったヒロインは、フラワー子爵家に養子として引き取られることになった。


 今がちょうど養子になったばかりなんだろう。


「取り乱してしまって申し訳ありません」


「ええ、落ち着いたらお食事でもしましょうか。ライラック様がお待ちしております」


 私はメイドに身支度を手伝ってもらい、屋敷の中を案内してもらった。


 子爵家ではあるが屋敷は広く感じた。


 私は部屋に入る前に一度お辞儀をする。


「カメリア、よく寝れたかな?」


「はい、お父様」


 どこか驚いた顔をしてメイドと顔を合わせている。


 確かダイニングルームに入る前にはお辞儀をするのが礼儀だったはず。


 テーブルに近づくと、従者が椅子を引いて待っていた。


「ありがとうございます」


 私は声をかけて椅子に座った。


「ほぉ、カメリアは礼儀正しいんだね」


 あっ、ちょっとやりすぎたのだろうか。


 この世界の礼儀や歴史、勉強に関してはゲーム内容を何回もノートにメモしているため、ほとんど知っている。


 それを他の視聴者達と共有しないと、全然クリアできなかったからね。


 一人で解決できるなら、私にとったらかなりイージーモードだ。


「昨日は騒がしかったから、よく寝れて良かった」


「なにかあったんですか?」


「ああ、街で貴族が刺されたって噂があってね」


 この世界は私が思っているよりも物騒のようだ。


 食事を取り分けてもらい、目の前に運ばれると思っていたより美味しそうだ。


 そういえば、ここの貴族はイモマッチョを食べないのだろうか。


 気持ち悪い見た目をしていたが、ダミアンの好物だから少し気になってはいた。


「やはりダークウッド公爵家は危ないから、気をつけないとな」


「ダークウッド公爵家?」


「ああ、昨日貴族を刺したやつの家名だな。息子が誘拐されたから殺したらしい。自己防衛にしてはやりすぎだ」


 この世界にはダミアンがいる。


 本当にモブだと思っていたダミアンが存在していたんだ。


 私はそれを思うと自然と笑顔になってくる。


 それに今の話は昨日までの回で終わったところだったはず。


 まだ、ダミアンは誰ともカップルになってないないわ。


 今なら彼のカップリングを間近で見えるチャンスよ。


 それには情報収集が必要不可欠だ。


「そんなにダークウッド公爵家は危ないんですか?」


「ああ、やつを見た瞬間震え上がるほどだ」


 どうやらあの怖さは本物のようだ。


 今ならパパとダミアンの恋を応援することができる。


 いや、パパを暗殺されないように手助けができるかもしれない。


「私も見てみたいな……」


「んー、それは難しいかな。昨日息子のお披露目会があったが、私達が呼ばれたのはモンブ伯爵家の令嬢のお披露目会だったからね」


 あー、あのモブ野郎が誘拐しようとしていた令嬢のお披露目会に私は参加していたようだ。


 ってことは養子になってすぐに準備をしてお披露目会に連れて行かれたということだ。


 養子でもお披露目する機会がなかったから、ちょうど昨日のお披露目会を利用したのだろう。


 私にモブの婚約者で見つけようと思ったのだろう。


 でもこの世界にダミアンがいることがわかったなら婚約なんてしてられない。


 これからも間近で推し活を――。


「学園に行くまで推し活できないじゃーん!」


 学園に入学までまだまだ日にちがある。


 どうにか私はダークウッド公爵家と知り合う方法を探すのであった。

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