第24話 弟、ダンスの練習をする

 俺はお披露目会に向けてダンスレッスンを始めた。


「ダミアン様、そこは足を引いて相手を引き寄せるんです」


「んー、難しいよー!」


 気づいた時に自分の足に引っかかって、何度も転んでしまう。


 試しに遊びに来た殿下や兄と一緒に踊ってみたものの同じだった。


 現に今も姉を引き寄せるつもりが、引いた足に引っかかってしまった。


「下手くそだな」


「クロちんうるさい」


 呆れた顔でクロは俺を見ていた。


「犬に八つ当たりをするとはダークウッド公爵家として恥じなさい!」


「姉様すみません」


 相変わらず姉は俺に対して厳しい。


 ただ、全く話をしてくれないわけではない。


「謝っても済む話ではないわ。あなたはお披露目会をやる資格がないのよ。諦めて中止にしてもらいましょう」


 悪役令嬢と言われるだけのことはあるが、どれも俺に対しての言葉ばかりだ。


 本番で転んで醜態を見せるわけにはいかない。


 それにそんな姿を父に見られたら、俺は一瞬にしてあの世行きだろう。


 それを姉は心配しているのだと感じている。


「姉様もう一度お願いします」


「わかったわよ」


 再び姉に頼み込んで何回もダンスを踊る。


 男性と女性ではパート毎で色々と異なってくる。


 基本的に男性がリードして、ダンスを引っ張っていく、女性がその動きに合わせてフォローする。


 それが貴族界でのダンスだ。


 俺の場合、このリードするっていうのが上手くできない。


 それに女性よりも男性の方が幅広いステップと大きな動きをしないといけない。


 ただ、俺にはそれができなかった。


 体の大きさが女性よりも小さい俺には男性パートが向いていないのだ。


「ほらここで大きく引き込むのよ」


 俺は力強く姉を引っ張るつもりが、逆に姉に引っ張られてしまう。


「おおおお」


――ドン!


 どうやら俺は姉の上に倒れてしまったようだ。


 急いで体を起こそうとするが、ドレスが引っかかってうまく起き上がれない。


「姉様すみません」


「もういいわ。クララ手を貸してちょうだい!」


 クララは僕を退かして姉に手を貸すと、すぐに立ち上がった。


 あの睨んでいる顔は絶対怒っているな……。


 顔も真っ赤になって、りんごのようだ。


「すぐにお父様にダミアンのことについて相談するわ」


「えっ……」


 報告でもされたら俺は怒られるだろう。


 急いで止めようとしたが、俺は再びその場で転んでしまった。


 本当に運動に適していない体にうんざりしてしまう。


 その後急いでクララは姉を追いかけに行った。


 どうやら俺のために止めに行ったのだろう。


 もしここで本当にお披露目会がなくなってしまえば、今まで準備したのが無駄になってしまう。


 たくさんのお金も使ったし、料理の材料は手配してある。


 そもそも公爵家がお披露目会をしないってことの方が問題になるだろう。


「あれは怒らせちまったな」


「クロちんまで傷をえぐらないでよ」


「誰だってあんなに踊りが下手だと思わないだろ」


 クロは二足立ちしてくるくると見せつけるように華麗に回っていた。


 ひょっとしたら俺より踊るのは上手いかもしれない。


 そもそも犬なのに二足立ちできるだけ器用だ。


「それでも残り一週間のうちにどうにかしないといけないね」


「仕方ないから手伝ってやるよ」


 俺は犬の手を持ってステップの練習を始めた。


 乙女ゲームの世界だからこんなことができるのだろう。


 きっとクロは俺を助けてくれるお助けキャラクターだ。


 ゲームの中にチュートリアルやシステムの説明をしてくれるやつがいるからな。


「おい、よそ見をするな!」


「はい!」


 俺はその日一日中クロとダンスの練習をした。

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