第7話 腐人、初のBLルートに歓喜する ※視聴者貴腐人視点

「ひやああああああああ! もう尊いわよ!」


 私は画面にかぶりつくような勢いで選択肢に投票した。


 今プレイをしているのは〝絶望のノクターン〟と言われている糞ゲーだ。


 プレイした人達みんなが言うほど内容がバットエンドばかりで、ヒロインだけプレイして辞める人が多かった。


 だって、悪役令嬢が攻略者を殺しに来ることがあるぐらいだ。


 彼女の視点でプレイした時は、何度も胸を締め付けられた。


 決して悪役令嬢が悪いわけではない。


 環境がただただどうしようもなかっただけだ。


 顔が悪役顔なだけでいじめているとか、犯人にされていたらさすがに悪役令嬢も闇堕ちしてしまう。


 それに全ての人が感情移入するほど、うまくできていた。


 ただ、バッドエンドを好む人が少ないのが問題だったのだろう。


 そもそもこの視聴者参加型ゲームは、毎回同じ時間にみんなでプレイして作るゲームだ。


 だから、バッドエンドを作るのは私達ゲームをやっているプレイヤーになる。


 一度クリアしたら、もう一度同じゲームができないと言われているぐらい精密でキャラ視点がコロコロと変わる。


 それだけ選択肢にはシビアにならないといけないのだ。


「今回はイザベラの弟視点か……」


 三ヶ月毎に主人公視点が異なり、主人公やヒロイン、他にも攻略対象やモブにまでなることがあった。


 ただ、数ヶ月前に推しとイチャイチャしていたのに、次のクールでは殺しあったりしたら心がもたないだろう。


 前回はモブ視点でほとんどが攻略対象をストーカーしていた。


 結局誰とも結ばれずに、ヒロインと攻略者との結婚後の初夜に屋敷に侵入してしまった。


 見つかったモブは殺されるという訳のわからない結末だった。


 ヒロイン以外はバットエンドになることが多いが、私の推しである悪役令嬢の兄はまだ一度も攻略対象者でもなく主人公になったこともない。


 彼は元々教員としての立場で働き、生徒達に恋をすることがないからだ。


 それなのになぜか目の前で――。


「恋愛フラグが立ってるよおおおおおおお!」


 初めてのダークウッド公爵家の新キャラ視点に驚きを隠せない。


 ついつい大声で叫んでしまった。


 幼いオリヴァー先生が出てきた時はスクショタイムが始まったぐらいだ。


 これを元にアクリルスタンドやポストカードを作ろう。


 ああ、推し活が捗りそうだ。


――ピピピピピピンポーン!


 さっきから隣に住んでいる人から、怒りの玄関チャイムがなるほど叫んでいたようだ。


 私は特に気にせず画面に集中することにした。


▶︎優しくお願いします!

 怖い兄しゃまは嫌いだ!

 僕が兄しゃまの上に乗るもん!


 まさかの三つの選択肢に私はついに推しのオリヴァー様が本当の攻略対象者になったことを知った。


 それに腐女子歴20年の腐り切って、貴人に進化した私が一番求めていたルートだった。


――〝BLルート〟


 そもそもBLルートに気づいたのは、頭のネジが外れまくった王子と出会った時の選択肢だった。


▶︎優しくお願いします♡

 できれば痛くない方法で……

 ぐちょぐちょにしてください


 こんな選択肢は過去一度も出たことがなかった。


 一応年齢制限がないゲームだったからね。


 R18だったのかと、すぐに検索したぐらいだ。


 ついにAIがバグったのかと思ったが、バグったのはBL好きの私達だった。


 その証拠にコメント欄が荒れまくっている。


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 腐死鳥 最近

 呼ばれてきたらとんでもないBLルートになってるじゃん!


 汚超腐人 最近

 王子にぐちょぐちょにされるダミアンが見たい。


 麻婆豆腐 最近

 さすがに王道すぎるわ。それよりもイザベラが邪魔ね。


 腐マキラー 最近

 女は全て排除よ!


 蝶々腐人 最近

 今後も攻略対象キャラが増えてくるから誰にするかは要相談ね。


==================


「投票で決まるから私一人では兄とのカップリングルートは難しいかな」


 一般的にヒロインの時に人気だったのは、王子、騎士あたりだった。


 あのひん曲がった性格の王子がヒロインの時は、ただただキラキラしているだけだからね。


 イザベラ視点になった瞬間に抹殺したくなるぐらいある意味好かれているキャラでもある。


「あの王子も王子で過去が酷いからね……」


 それでも初のBLルートに私の胸は高鳴っていた。


==================


 貴腐人 最近

 私は兄推しだけど、とりあえず様子をみましょうか。


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 私もコメントを残して今日のゲームを終えた。


 しっかり誰推しなのかを認知させておいた。


 あわよくば兄推しが多ければいいな。

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