最終話 弟、破滅フラグを回収する

 パーティー会場の扉を開けると、視線が俺達の方へ集まってくる。


 あれだけ派手な退場の仕方をしたのに、また戻ってきたらみんなも見るだろう。


 それになぜか俺達四人で手を繋いでいるからね。


「ダミアン様、大丈夫ですよ」


「イザベラ様は大丈夫そうですね」


 クロは相変わらず俺の心配をしていた。


 さっきまでダンスが終わってないと聞き、逃げ出そうとしていたからね。


 たびたびガッチリ後ろからホールドされたら、逃げられるはずもない。


 ちょうどその時に、聞いたこともない何かの鳴き声が一瞬聞こえたがあれはなんだったのだろう。


 奈落の底から何かが不気味に唸っているような声に聞こえた。


「二人ともどこに行ってたんだ?」


 声をかけてきたのは兄だった。


 どこか俺達を睨んでいる気もするが、何か理由があったのだろうか。


「姉さんを連れて行った方が、良い演技になると思ってね! 急にサプライズの劇をやるからびっくりしたよ」


 これで確認すれば、婚約破棄の真相がわかるはず。


「はぁー、やっぱり伝わってないか」


「うん、伝わってなかったよ! ちゃんと教えて欲しかったかな」


 やはり劇だったのは間違いないようだ。


 さすがにあんなに大きなイベントをするなら、事前に言ってもらいたいものだ。


 ただ、姉の顔が晴れないのは、冗談でも婚約破棄という演出に相当心が滅入ったのだろう。


「殿下もあんな感じだぞ」


 オリヴァーの指をさした方には、人が集まっていた。


 その中心には殿下が座っている。


 相変わらず人気者のようだが、俺にはどこかイライラしているようにも見えた。


 あの人って結構腹黒いからね。


 俺達の存在に気づいたのか、微笑んで近づいてきた。


「やっと帰ってきたようだね」


 殿下は俺の髪の毛に触れ、軽く口付けをする。


 あれ?


 殿下ってキラキラして優しそうなイメージだったが、どこか目の奥が笑っていない。


 普段より冷たい感じがする。


 どこか背筋がゾッとする。


「私の中には君しかいない。それだけは覚えておいてくれ」


 耳元で呟き、どこかへ去っていく。


 あの言葉にどういう意味があったのだろうか。


「汚いわね」


 そんな俺の髪の毛をイザベラが払ってくれた。


 思ったよりもイザベラと殿下って仲が悪かったのだろうか。


「ついにダミアンの前でも素になったってことか」


 オリヴァーも何かを言っていたが、遠くから俺を呼ぶ声にかき消されていた。


「ダミア~ン!」


 声をかけてきたのはフェルナンだった。


 彼も冗談に紛れて参加していた人だ。


「そろそろダンスをする時間だろ? 一緒に踊ろうぜ!」


 そう言ってフェルナンは俺の手を掴んだ。


「いや、僕ダンスは苦手で……」


「大丈夫! 俺に任せておけ!」


 フェルナンは聞く耳を持たないのか、俺をそのまま抱えて運んでいく。


「デュフフフ、同級生のカップリングもいいわね」


 カメリアはニヤニヤしながら、こっちを見ていた。


 あんなにゆるふわキュルルン系男子だったのに、いつのまにか力も強くなっていた。


 やはり騎士家系は食べるものも違うのだろうか。


「お兄様、あの方にはしっかり話はしているのかしら?」


「騎士家系はやっぱり面倒なのはわかった」


「ダミアンが嫌じゃなければいいですけどね」


 何か話しているようだけど、遠いから中々聞こえない。


「さぁ、私達も踊りましょうか?」


「へっ……!?」


 俺の後ろからイザベラとカメリアが手を繋いで追いかけてきた。


 同性同士だとさすがに目立つのか視線が集まっていた。


 あれも俺が踊れないことを隠すための演出なんだろうか。


 音楽が鳴りだすと、生徒達は一斉に踊り出す。


 ただ、見た目が良いから俺も見入ってしまいそうな気がする。


 人気アイドルが踊っている感覚に近いだろう。


「ダミアン踊るぞ?」


「うっ……うん!」


 俺もフェルナンとともに踊り出した。


 相変わらず俺の足は付いていけないが、フェルナンは思ったよりもダンスが上手だ。


 きっと騎士を目指しているだけあって、運動神経も良いのだろう。


「ねぇ、ダミアン?」


「ん?」


「俺は絶対にダミアンの騎士になるのを諦めないからな」


 別に俺はクロが守ってくれるから、騎士はいらないだろう。


 それでも騎士になりたいのなら、フェルナンの勝手だ。


「気長に待っているよ」


「ははは、さすがダミアンだね」


 そう言ってフェルナンは俺を振り回した。


 ええ、やつのダンスは普通のダンスと比べてアクロバットだった。


「へへへ!」


 それでも俺は嬉しくて笑みが溢れてしまう。


――悪役令嬢の婚約破棄


 それは乙女ゲームで必要な重要なイベントだ。


 それが冗談の劇で無事に幕を閉じた。


 これで俺の人生の破滅フラグはなくなった。


 頭上の選択肢もなくなり、やっと好きに生きられるだろう。


「なぁ、ダミアン?」


「何? 君は一体誰を選ぶんだい?」


「えっ……」


 俺の頭上には殿下、兄、クロ、フェルナンの選択肢が出ていた。


 これは何のルートなんだろうか。


 俺はこれからもゲームの世界でフラグ回収をするようです。


───────────────────

【あとがき】


 ここまで読んでいただきありがとうございます!

 かなりBL感を意識しながら、みんなが読める形にまとめました。


 一度ここで完結という形になります。


 よければ★★★評価とレビューをよろしくお願いいたします!

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悪役令嬢の弟は今日もBLルートを突き進む〜視聴者参加型の乙女ゲームに転生したが、破滅フラグは折れてもBLフラグは折らせてくれないようです〜 k-ing@二作品書籍化 @k-ing

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