第19話 弟、一緒に住むことになりました

「それでダミアン様はなぜこんなところにいるんですか?」


「その黒いやつが気になって追いかけていたら、おじさんに会って逃げてました」


「やっぱお前のせいじゃないか!」


 花屋の手下が冒険者を叩いてじゃれあっている。


 ただ、お互いに強面だからヤクザ同士の喧嘩にしか見えない。


 そういえば犬の存在を忘れていた。


 俺が振り返ると犬はビクッとしていた。


「怪我はしていない大丈夫?」


「ああ」


 俺に話しかけられて驚いていた。


 まさか俺以外の前で話したらいけないのだろうか。


「ひょっとしたら話さない方が良い?」


 ビクッとしてながらも小さく頷いていた。


 何も言わないただの犬として、ここを乗り切りたいのだろう。


 これだけ顔が怖い悪役面ばかり集まったら、絡まれたくはないのだろう。


「ダミアンこいつはなんだ?」


 俺は犬を抱きかかえて父に見せる。


「僕をここまで送ってくれたの! 家に連れ帰っても良いかな?」


 父はギロリと犬を睨みつける。


 ひょっとして犬が嫌いなんだろうか。


 援護射撃として必殺"ゆるふわキュルルンビーム"を放つ。


「うっ……」


 父はさらにギロリと睨んできた。


 さすがにやり過ぎたのか。


「わかった。ただ、ダミアンが面倒を見るように」


 どうやら屋敷で犬を飼っても良いようだ。


 屋敷にいた方が食べられる物はたくさんあるし、話す犬って暇つぶしにもなる。


 正直、家族と接する時は良い子を演じないといけないため疲れてくる。


「ダミアン帰るぞ!」


 父達は先に花屋に戻っていく。


「これでたくさんご飯が食べられるね」


「本当か?」


「きっと今日のご飯も美味しいだろうね」


 すでに食べることを考えているのか、よだれがポタポタと垂れていた。


 屋敷に連れて帰ることになったのは、気にしていないのだろう。


 俺は犬と共に父の後ろ姿を追いかけた。





「おい、これはどういうことだ」


「犬が欲しかったから……」


 家に帰ったらなぜかオリヴァーが部屋で待機していた。


 帰ってきた俺はなぜかオリヴァーに説教されている。


「これが本当に犬だと思ってるのか?」


「えっ……むしろ兄しゃまには犬に見えないの?」


 どこからどう見ても犬にしか見えない。


 口元に触れても立派な牙が生えている。


 もふもふなしっぽも生えている。


「犬は犬だけど――」


「なら良いじゃん! 意地悪な兄しゃまは嫌いだよ?」


「うっ……」


 この家族は姉以外は俺のおねだりに弱い。


 それがわかれば攻略方法は簡単だ。


 そもそもオリヴァーは何の予定があって俺の部屋にいたのだろうか。


「兄しゃまは何をしにきたの?」


「いや……ダミアンが心配になって見にきただけだ」


 きっと父と出かけたことを気にしているようだ。


 それで犬も連れて帰ってきたら、何かあったかと心配になったのだろう。


「少し迷子になったけど、犬が助けてくれたの」


 とりあえず犬の方を見ると、首を傾げながらも何かを感じ取ったのか大きく首を振っていた。


 話せるだけあって言葉の理解ができるようだ。


「それよりも今から湯浴みをするから、またあとでね」


 たくさん汗もかいたし、尻もちもしたから体が汚れている。


「おい、湯浴みってまさかその犬も一緒に――」


 犬も体が汚れているから、一緒に入った方が良いだろう。


「そうだよ?」


「それは俺が許さん!」


「えー、別に良いじゃん。兄しゃまはまた今度ね」


 兄を部屋から追い出して風呂に入ることにした。


「俺は許さんぞー!」


 廊下から聞こえる兄の声はどこか寂しそうだった。


 そんなに一緒に入りたかったのかな?

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