第18話 弟、魔法の存在を知る ※一部父親視点
俺は魔法で走りを加速させる。
途中で魔物を見つけるが、今はそれどころではない。
まずはダミアンの安全が先だ。
かなり奥まで進むと魔物が、何かに飛びかかっているところを見つけた。
その先に木の棒を持ったダミアンがいる。
「ダミアンは何をやって……いや、獣人を守ってるのか?」
少し後ろには動けなくなった犬の獣人がいた。
獣の姿をしているってことは、まだ思春期にもなっていないのだろう。
獣人は成長期になると見た目が人間になるからな。
ひょっとしたら子どもの獣人を守っているのかもしれない。
それならすぐに助けに行かない方が息子のためだ。
しかし、ダミアンは大きな木の棒を振りかぶったがあっさり折れてしまった。
すぐに魔法を唱えようとしたが、ダミアンは体を横にズラして魔物の攻撃を避けた。
「ダミアン様ってオリヴァー様より優秀かもしれないですね」
俺も今そう思ってしまった。
今のオリヴァーでも魔物の動きに反応できるのか微妙なところだ。
むしろオリヴァーよりも年下であるダミアンが反応できただけすごいことだ。
「あっ……」
そう思ったのも束の間だ。
そのままダミアンは尻もちをついて倒れた。
どこかダミアンらしくてつい笑ってしまった。
「消え去れ!」
俺は魔法を唱えて魔物を消滅させる。
一瞬にして魔物はその場で破裂して消えた。
ただ、ダミアンは俺達の存在に気づいて震えていた。
ああ、やっぱり俺の存在がダミアンを怖がらせてしまったのだと思った。
俺の感情が転んでいる息子の姿を見て緩んでしまったからな。
だが、ダミアンの反応は違った。
「パパ! さっきのやつはなに!?」
「へっ!?」
急に息子が抱きついてきたのだ。
俺の感情は戸惑ってさらに暴走している。
近くにいた魔物達が遠くに逃げていくほど、恐怖が広がっているのだろう。
「ボス、落ち着いてください」
隣でガタガタと手下が震えているのに、ダミアンはケロッとした顔をしていた。
むしろ、俺の顔を見て目を輝かせていた。
ああ、また魔力が暴走しそうだ。
♢
俺は父の存在に気づいてつい抱きついてしまった。
決して怖かったから抱きついたわけではない。
目の前で魔物が爆発したのだ。
これが魔法じゃなかったら、なぜ目の前で爆発したことになるだろうか。
「パパ! さっきのやつはなに!?」
俺は魔法の存在を聞くために抱きついた。
さっきよりも寒気がするが、今はそれどころではない。
魔法を聞くためにたくさん甘えて落とすだけだ。
――必殺"ゆるふわキュルルン上目遣い"
頑張って大きく目を見開いて、パチパチ瞬きをする。
どこか父は優しそうに微笑んだ。
いつも睨んでばかりいたが、笑った顔は悪役顔というよりはどこか塩顔なイケメンだった。
「パパ笑ってるね」
「はっ!?」
つい言葉に出てしまった。
だが、それに気づいた父は再び俺の顔を睨んでいた。
どうやら睨んでいたのは違う理由があるのかもしれない。
嫌われていないだけでも俺は良かったと思うことにした。
それにそれよりも大事なことに気づいてしまった。
近くに剣を持ったあの男がいた。
「あっ、人殺しおじさんがいる!」
俺は急いで父を盾にした。
「誰がおじさんだ!」
いやいや、気にするところはそこではない。
人殺しを否定しないってことは認めているということだ。
「おい、人殺しをしたのか?」
「するわけないじゃないですか! 冒険者が指名相手や盗賊以外を殺したら免許剥奪されることぐらい有名じゃないですか」
ん?
冒険者だって?
再び俺の心はワクワクしていた。
「冒険者ってあの冒険者ですか?」
「ああ、俺は冒険者だ! それにまだ23歳だぞ!」
さすがに23歳はないだろう。
見た目も父よりは年上に見える。
「パパの方が若く見えるね」
「プッ! あはははは!」
正直なことを言ったら、手下の男は笑っていた。
どうやら冒険者の年齢については、誰も触れないようにしていたようだ。
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