第48話「日本の夏と花火」
『あ、お肉があるよ! あれそうだよね?』
『ああ、牛串か、食べてみる? エマちゃんも食べるかな?』
『うん、エマおにくすき』
夏祭りを楽しんでいた俺たちは、リリアさんが見つけた牛串のお店に行った。おお、けっこう大きいようだ。
「すみません、三つください」
俺がお店のお兄さんにそう言うと、
「あいよ! おや、そっちの子は外国の子かい?」
と、言われた。やはりリリアさんとエマちゃんはハーフということもあって目立つようだ。
「あ、はい」
「そっかー、日本の夏は楽しいかな?」
俺が翻訳してあげると、
「うん、たのしい」
と、リリアさんは日本語で言った。
「おっ、日本語もよくできてるねー、はい、お姉ちゃんどうぞー」
お兄さんがリリアさんに牛串を渡すと、リリアさんは「ありがとう!」と、また日本語でお礼を言っていた。
「はい、こっちのお嬢ちゃんにも」
エマちゃんが受け取って、「あ、ありがとう」と、日本語でお礼を言った。
「兄ちゃん、二人をちゃんとエスコートしないとダメだぞ、はいどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
俺も受け取って、三人で食べてみることにした。
『んむんむ、美味しいー! お肉大きくて美味しいね!』
お肉を食べるリリアさんが、可愛く見えた。
…………。
……はっ!? お、俺も食べることにする。たしかにリリアさんの言う通り、お肉も大きくて美味しいなと思った。大人はビールとかと一緒に食べるのだろうか。俺はまだ未成年だからよく分からないが。
『エマちゃんも食べてるかな?』
『うん、おにくおいしい。エマたくさんたべてえらい?』
『うん、偉いね。でも慌てないで、ゆっくり食べてね』
俺がそう言うと、エマちゃんは「うん」と日本語で言って、笑顔を見せた。エマちゃんも少しずつ日本語を覚えているみたいだな、よかったなと思った。
……そういえば、さっきからなんか通りすがりの人がこちらをチラチラと見ている気がする……まぁリリアさんとエマちゃんが外国人であることや、俺たちがフランス語で話しているのがめずらしいのだろうな。どうでもいいと思った俺だった。
その後、リリアさんがフランクフルトも食べたいと言ったので、買ってあげることにした。本当にリリアさんはよく食べるな。
『あ、そういえばもうすぐ花火が打ち上がるんじゃないかな』
『へぇー、花火が上がるの!? すごいなー!』
『うん、フランスでは花火が上がることってあったのかな?』
『バスティーユデーによく上がってたよ! あと新年とか! 一回見たことあるけど、すごかったなぁ』
『バスティーユデー……ああ、国民の祝日か、たしか夏場だもんね』
なるほど、特別な日に打ち上がるという感じなのか。まぁ花火といえば日本は夏の風物詩みたいなところはあるが、それもまた特別な日なのだろう。
……そんな特別な日を、俺は友達と過ごしている。以前だったら家にいて、ああ上がっているなと思うだけだったのに、こんなに変わるなんてな。人間何があるか分からないものだ。
……ヒュゥゥゥ、ドーン、ドーン――
ぼーっとしていると、花火が打ち上がり始めた。俺たちは神社の横の階段に座って見ることにした。周りには同じように座って見る人が多くいた。
『わぁ、きれいだねー! ショウタ、日本は夏に花火がよく上がるの?』
『ああ、日本は夏が多いね。花火大会も各地でよく行われているよ』
『へぇー、これが日本の夏なんだねー』
打ち上がる花火を見る、リリアさんの横顔。
その綺麗な横顔を見て、俺はドキッとしてしまった。
…………。
……はっ!? お、俺は何を考えているのだろう。
『えへへ、ショウタ、今日はありがとうね。ショウタが誘ってくれて、私嬉しかったよ』
『おにいちゃん、ありがとう』
『あ、い、いや、せっかく近くであるし、楽しいかなと思って……まぁ、俺も今まで一人だったから行くことなんてなくて、新鮮というか……こ、こちらこそありがとう』
ちょっと恥ずかしくなった俺だった。でも、今の言葉は本当だ。リリアさんとエマちゃんがいたからこそ、こうして夏祭りを楽しむことができている。それは感謝しないといけないな。
その時、俺の右手がなんだかあたたかくなった。まぁ夜とはいえ外は暑いからな……と思ったが、なんか違う。ふと見ると、なんとリリアさんが俺の右手をきゅっと握っていた……って、えええ!?
『え!? あ、り、リリアさん……?』
「ショウタ、ありがとう、わたし、うれしい」
ドーン、ドーン――
綺麗な花火が打ち上がる。俺はびっくりしたのと恥ずかしいので、だんだん顔が熱くなっていく感じがした。ま、まぁ、手はよく握られているけど、今日のこの姿だとさらに――
『おにいちゃん、かおがあかい』
『え!? い、いや、そうでもないと思うけどね……あはは』
ドーン、ドーン――
夏の思い出が、また一つ増えたような気がした。
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