第25話「ガイジンってなに?」

 エマちゃんがぎゅっと俺に抱きついて、離れない。

 日本語が分からないとはいえ、怖かったのだろう、少し泣いているようだ。俺は優しくエマちゃんを抱きしめてあげた。


『エマちゃん、大丈夫だよ、お兄ちゃんがいるよ』

『……エマ、ガイジン? っていっぱいいわれた……おにいちゃん、ガイジンって、なに……?』

『ああ、あまりいい言葉ではないね。日本は他の国の人と交流することが少ないから、ガイジンと言ってバカにすることがあるんだ。よくないことだとお兄ちゃんは思うよ。エマちゃんはそんな日本語覚えなくていいからね』

『……うん、エマ、ガイジンじゃない……』

『うん、エマちゃんはエマちゃんだ。あ、飲み物買ってきたけど、しまった、エマちゃんはジュースの方がよかったかな、お茶でも大丈夫?』

『うん、おにいちゃん、ありがとう』


 俺がお茶を渡すと、エマちゃんが嬉しそうに受け取って飲んでいた。少しは落ち着いたかな。


『リリアさんも、スポーツドリンクあるから、飲んで』

『あ、ありがとう。ごめんねショウタ、私何もできなくて……』

『ううん、大丈夫。リリアさんもあんな悪ガキの日本語は覚えなくていいから。もっといい言葉を覚えよう』

『分かった。ショウタが教えてくれると、私もエマも嬉しいよ』

『うん、おにいちゃん、さっかーって、にほんごでどういうの?』

『ああ、こう言うよ』


 俺はそう言った後、「サッカー」と日本語で言った。


『そっかー、サッカーかぁ、なんか英語に似てるかな?』

『ああ、似てるかもな、そのまま持って来ているかも』


 リリアさんとエマちゃんが嬉しそうに「サッカー、サッカー」と日本語で言っていた。まぁ、楽しそうでなにより。


『……よし、飲んだらまたサッカーやる?』

『ううん、エマ、リリアとおにいちゃんがばれーぼーるやってるの、みる』

『そっか、じゃあリリアさん、もう一度練習しようか』

『うん! ショウタ、今度はトスを上げてくれるかな、私あそこの壁に向かってスパイク打つんで!』

『え、あ、俺にできるかな……』


 今度はリリアさんがバレーボールを持って、俺にひょいと投げてきた。俺はそれを受けてトスを上げる。するとリリアさんがススっと動いて大きくジャンプ。バシッと音を立ててスパイクを打った。


『お、おお、リリアさんすごいな、そんなこともできるのか』

『えへへー、すごいでしょー! ショウタ、運動ができる女の子ってどうかな!?』

『え、ま、まぁ、いいと思うよ……って、ち、近――』


 ぐいぐい俺に迫って来るリリアさんだった。だ、だから近いとドキドキしてしまうじゃないか……。

 ……ん? お、俺は何を考えているのだろうか。


『リリアすごい。おにいちゃん、かおがあかい』

『え!? あ、そ、そうでもないと思うけどね……あはは』


 エマちゃんにバレているような気がして、違う意味でドキドキした俺だった。



 * * *



『ふぅー、けっこう運動したねー! だいぶ疲れてきたかな』


 あれからしばらく、リリアさんとバレーをしたり、エマちゃんも一緒にボールを追いかけたりしていた。たしかに疲れてきたのはあるが、心地いい疲れというか、気分がよかった。誰かと一緒に身体を動かすのがこんなにいいものだったとは。


『ああ、だいぶ運動したな。エマちゃんも疲れてないかな?』

『エマげんき、だけどちょっとつかれた、おちゃのむ』

『うん、水分は大事だからね。リリアさんも水分補給を』

『うん、ありがとう! これで球技大会はバッチリだね!』

『あ、ああ、俺は気配を消すことにするけど……』

『あはは、ショウタはやっぱりニンジャみたいだねー! そのうち完全に消えちゃったりして』


 ど、どこで忍者なんて覚えたのだろうか。ま、まぁいいか。


『たまにはこうして運動するのもいいかもねー。ここならエマとも遊べるし! ショウタ、教えてくれてありがとう』

『いえいえ、俺も小さい頃はここに来てたなぁ。まぁ、当然友達はいなかったんだけど』

『おにいちゃん、ともだちいないの?』

『ああ、昔は友達がいなかったよ。でも今はリリアさんが友達になってくれたよ』

『そっか、リリア、おにいちゃんのこいびと。エマしってる』

『え!? あ、いや、こ、恋人ではない……かな……』

『え、エマ!? ご、ごめんね、エマも変な言葉覚えてるな……』


 わたわたと慌てるリリアさんが、可愛く見えた。


 …………。


 ……はっ!? お、俺は何を考えているのだろうか。り、リリアさんは友達であって、恋人では……。


 ……なんだかそれも嫌な気分ではないなと思ったのは、ここだけの話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る