第22話「一か月が過ぎてみて」

 新しい学年が始まって一か月ちょっとが経った。

 ということは、リリアさんと出会って一か月ちょっとということでもある。


 なんだかあっという間だった。俺も高校生ということでまだまだ若い方だとは思うが、年々時の流れが早く感じている。え? 感じるのが早すぎるって? それでもそう感じるのだから仕方ない。


 一か月前まで、友達なんていらないと思っていた。学生に大事なのは勉強。勉強が友達で十分だと、本気で思っていた。


 でも、リリアさんは違った。俺と友達になりたいと言ってくれた。


 最初はどうでもいいと思っていたが、リリアさんと接していくうちに、彼女の明るい性格、遠い異国の地で勉強を頑張ること、なんでも興味を持って積極的に触れていくその姿に、俺は惹かれていった。


 ……ん? い、いや、あくまで『友達』としてだ……が、リリアさんの可愛い姿を見ていると、俺はドキッとすることもある。

 よく分からないが、まぁ俺は男の子、リリアさんは女の子。異性にドキッとすることくらいあるだろう。そんなもんだ。


『――ショウタ? どうしたの?』


 名前を呼ばれてハッとした。い、いかん、なんかぼーっとしてしまったらしい。リリアさんが不思議そうな顔で俺を見ている……って、近いな。ご近所同士とはいえこんなに近いと焦ってしまう。なんの話だろうか。


『あ、い、いや、なんでもない……』

『そぉ? なんだかぼーっとしてたから気になったけど、まぁいいか。それにしてもここも人が来なくていいところだね!』


 リリアさんが辺りをキョロキョロと見回しながら言った。今は昼休み。俺たちは俺のお気に入りスポットの一つである、校舎端の階段の最上階に来ていた。ここも普段は人が来ない、ひとりぼっちにはピッタリの休憩スペースだ。俺はひとりぼっちだった時に学校のことはリサーチ済みだ。一人になれる場所を探すのはもうプロと言えるだろう。何を言っているのだろうか。


『うん、ここは俺のお気に入りのスポットの一つだ』

『ふふふ、ショウタ嬉しそう。やっぱり一人が好きなんだねー』


 そう言ってリリアさんが俺の頬をツンツンと突いた。だ、だから距離が近い……まぁ、これもなんだか慣れてしまった。外国の人がみんなこうなのかは分からないが、リリアさんは距離が近い人だと認識していた。


『まぁ、俺はひとりぼっちのプロだからな、そこは任せてもらっていいというか』

『あはは、プロなんだねー。でも、もうひとりぼっちじゃないでしょ?』


 リリアさんが俺の左手をきゅっと握ってきた。まぁ、リリアさんの言う通り、友達であるリリアさんがいてくれるので、もう俺はひとりぼっちではない。友達が百人いる必要もない。ただ一人でもいいということを俺は学んだ。


『あ、ああ、さっき、リリアさんと出会って一か月が過ぎたんだなって思ってたよ』

『ああ、そうだね、朝ショウタが助けてくれたもんね。えへへ、あれは忘れないよ。ショウタ優しかった!』

『あ、ありがとう……と言うのも変なのかな』


 なんか変な気がして俺が慌てていると、リリアさんが笑った。そしてリリアさんは持って来ていたお弁当箱を開ける。今日も美味しそうなサンドイッチがみっちりと詰まっていた。


『いただきまーす……んむんむ、美味しいー!』


 ……美味しそうにサンドイッチを頬張るリリアさんが、可愛く見えた。


 …………。


 ……はっ!? 俺も食べないと……と思って、持ってきたパンを食べることにした。


『あれ? ショウタのそのパン、なんか帽子の形? してるね!』

『ああ、メルヘンハットパンっていうんだ。この周りの部分が美味しいというか』

『へぇー、色々なパンがあるんだねぇ。あ、そういえばこの前、お家でスキヤキ? っていうの食べたよ! ママが作ってくれたんだー』


 リリアさんが嬉しそうに話す。おお、すき焼きか、お肉を卵にくぐらせて食べるのを想像してしまった。


『おお、そうなんだね、美味しかった?』

『うん! なんだか甘い感じがしてね、卵につけて食べるのが新鮮で、こういう食べ物があるんだなーって思ったよ!』


 リリアさんが「すきやき、すきやき」と、日本語で言っていた。ま、まぁ、美味しかったのならよかった。


『そっか、それはよかった。お母さんに日本語習ったりしてる?』

『うん、少し教えてくれるかなー。でもママもお仕事してて忙しいから、なかなか訊けなくてねー。その代わり、ショウタが教えてくれるからいいかなって!』


 リリアさんがニコッと笑顔を見せた。そうか、お母さんも働いているのか。それならば俺が代わりに教えてあげられたらいいなと思った。


 ……ん? やはり俺は変わったようだ。リリアさんと触れ合うのがなんだか楽しいと感じている。友達というのはこんなにいいものだったのかと、俺は改めて思った。

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