第23話「球技大会の話し合いは」

「はい、それでは球技大会のメンバーを決めたいと思います。みなさん出たい種目を選んで、報告に来てください」


 教室に学級委員の声が響いた。ああ、嫌なイベントが来てしまった。俺は心の中でそう思っていた。

 先ほど学級委員が言ったように、もうすぐ球技大会がある。男子はサッカーかソフトボール、女子はバレーかバスケに出ないといけない。その日はそっと休もうか……と思っていたら、


『ねぇショウタ、今なんて言ってたの?』


 と、隣から流暢なフランス語が聞こえた。もちろんリリアさんだ。まぁさすがに今の日本語は難しいだろうと思って、説明することにした。


『ああ、もうすぐ球技大会っていう、スポーツのイベントがあるから、それのメンバーを今から決めるんだよ。リリアさんは女子だから、バレーかバスケのどちらかに出ることになるね』

『へぇー、スポーツのイベントかぁ! バレーかバスケか、どっちにしようかなー』


 ふんふーんと楽しそうなリリアさんだった。たしかリリアさんはフランスでバレーやバスケをやっていたと言っていたな。まぁ好きな方に出るといいよ。俺はそっと消えさせてもらう……。


『私、バレーに出ようかな! ショウタは何に出るの?』


 リリアさんが笑顔で訊いてきた。う、うーん、スポーツなんてやってられないんだけどな……みんな忘れたと思うが、俺は元ひとりぼっちだ。チームプレイができるような人間ではない。誰に言っているのだろうか。


『う、うーん、サッカーもソフトボールも興味なくて……』

『えー、でも出ないといけないんでしょ? 大丈夫、私がいるからね!』


 リリアさんがふんふんと鼻息を荒くして両手でトスを上げていた。まぁ、リリアさんは友達だが、女の子だからな……男の種目に入るわけにはいかないしなぁ。

 ……でも、なんだか楽しそうなリリアさんを見ると、ずる休みするとは言いにくかった。仕方ない、どちらかを選ぶしかないか……。


『……うーん、じゃあサッカーにしようかな、あっちなら気配を消していてもいいだろうし』

『あはは、ショウタ、なんかニンジャみたいだね!』


 リリアさんが笑った。そ、そうか、忍者なんて知ってるのか。どこで勉強したのだろうか。まぁいいか。


 その時、学級委員がこちらを見ているような気がした。あ、決めたからには報告に行かないといけない。とりあえずリリアさんの分も伝えてくるか……と思って、俺は学級委員の元へ行く。


「……あ、俺はサッカーで、リリアさんはバレーでいいかな」

「……はい、綿貫くんがサッカーで、リリアさんはバレーですね、分かりました」


 学級委員と機械的なやりとりを交わした後、俺は席に戻る。誰かがヒソヒソと俺のことを話しているような気がしたが、そんなものはどうでもいい。


『ショウタ、どうだった?』

『あ、大丈夫、リリアさんはバレーになったよ。俺はサッカーで当日は無になることにするか……』

『あはは、ショウタ面白いこと言うねー! バレーかぁ、あ、そうだ、ショウタ、今度練習に付き合ってくれない? 家にたしかバレーボールあったから!』


 またふんふんと鼻息の荒いリリアさんだった。なんだかそれも可愛い。

 ……はっ!? お、俺は何を考えているのか。ていうか家にバレーボールがあるって、どんなミラクルだよ……と思ったが、何も言わないことにした。


『え、あ、練習って、俺そんなにバレーはできないと思うが……』

『大丈夫だよー、トス上げてくれればいいから! 私がスパイクを打つよー!』


 今度はぶんぶんと右手を動かすリリアさんだった。ま、まぁ、トスを上げるのなら俺にもできないことはないか……。

 ……ん? い、いや、球技大会はどうでもいいんじゃないのか。なんかリリアさんのペースになっているな。今に始まったことではないが。


『ま、まぁ、それくらいならいいけど……』

『やった! じゃあ今度の休みの日によろしくねー! 家の近くに公園とかあるかな?』

『ああ、ちょっと歩いたところに広場があるから、そこなら大丈夫じゃないか――』

「リリアさーん、リリアさんはどっちに出るー? あ、英語で話さないと」


 その時、クラスメイトの女子がリリアさんに話しかけていた。「英語でどう言うっけ? Whichかな?」とか盛り上がっているが、俺は助けない。訊かれてもいないし話す必要もない。俺もとことん人付き合いが苦手のようだな。


 リリアさんも楽しそうに英語でクラスメイトと話している。よかったなと思った。それにしても球技大会か……めんどくさいけど、仕方ないかと思っていた俺だった。

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