第21話「にほんごがんばる」

 連休も終わり、今日から学校がまた始まる。

 俺は連休中もしっかりと勉強をすることができた。うん、これまで通り真面目に取り組むことができただろう。勉強オタクの俺らしいな。


 今日も朝から勉強をした。予習は終わっているのでフランス語を独学で学んだ。今はネットがあるから情報も多い。いい勉強環境にもなっているのだ。


 ピンポーン。


 朝ご飯を食べ、しばらくのんびりしていると、インターホンが鳴った。あれ? 朝から誰だ? って、だいたいの予想はついたが、一応玄関に出る。


「あ、ショウタ、おはよう」


 日本語でそう言ったのはリリアさんだ。おはようも完全に覚えたみたいだな。たまにいつもの癖でフランス語が出ることはあるけど。


「あ、おはよう」


 俺も日本語で挨拶をした。


『えへへ、オハヨウ覚えたよ! なんかスムーズに言えるようになった!』

『そ、そっか、それはよかった……って、リリアさん、もう学校に行くのか?』

『うん! ショウタと一緒に行こうと思って!』

「――あら? リリアちゃんおはよう~、今日も可愛いわね」


 後ろから声がした。母さんが笑顔でリリアさんを見ていた。


『あ、ママ! おはようございます! あ、日本語で言わないと』


 わたわたと忙しいリリアさんが、


「ママ、お、おはようございます」


 と、日本語で言った。おお、丁寧な言葉も大丈夫そうだな。


「あらー! すごいわー、リリアちゃんも日本語が上手になってきてるわねぇ」


 い、いつの間にか呼び方がリリア『ちゃん』になってるし……ま、まぁいいか。


「リリアさん、学校行くって言ってるから、俺も行ってきます」

「そう、いってらっしゃい、二人仲良くね」


 母さんに見送られて、俺とリリアさんは一緒に家を出た……って、いくら友達とはいえ、一緒に行く必要はあるのかな……まぁ、同じマンションだしリリアさんが楽しそうなのを見ると、嫌だとは言いづらかった。


『ねぇショウタ、この前はありがとう。一緒にお出かけできて、私とっても嬉しかったよ!』


 ニコニコ笑顔で言うリリアさんだった。


『ああ、こちらこそありがとう。リリアさんが楽しんでくれたなら嬉しいというか……はっ!?』


 その時、俺は思い出して自分の頬を手で触った。あ、あの時、リリアさんは、お、俺の頬に……き、キスを……。


『……あれ? ショウタ、どうかした?』

『……あ、い、いや、なんでもない……日本がどんな感じか、少しは分かったかな?』

『うん! とってもいい街だね! 賑やかなのもいいっていうか、いろいろなものがあってどれも新鮮だったよ!』


 たしかに、フランスとは街並みも違うだろうし、お店も違うだろう。リリアさんがこうやって少しずつ日本に慣れてくれるといいなと思っていた。


 ……ん? 俺も本当に変わったものだな。前まではリリアさんはどうでもいいと思っていたのに、今はリリアさんが嬉しいことが自分も嬉しいと感じるようになっている。友達というのはこういうものなのか。初めての経験だが、悪くないなと思った。


 いつも通り電車に乗り、学校へ行く。やはりリリアさんがハーフということもあって、少々目立ってこちらをちらちらと見られているような気がするが、そんな視線はどうでもよくなっていた。


 学校に着き、席に着く。いつものようにリリアさんが席をくっつけてきた。俺は一時間目の準備をする。現代文か、教科書とノートを取り出し眺めていると、


『ねぇショウタ、日本語の練習したいから、今日は日本語で話してくれないかな?』


 と、リリアさんが言った。


『え? ま、まぁいいけど、大丈夫か? まだ知らない言葉もたくさんあると思うけど……』

『うん、言えるかどうか分からないけど、少しずつ勉強したいなと思ってね。私も日本語で返事するから!』


 まぁ、言葉と言うのは口に出すことで覚えることも多いだろう。リリアさんがそう言うのなら、俺もお手伝いできるといいなと思った。


『じゃあ、簡単な言葉で話すね。あ、授業の説明はさすがにフランス語も入れると思うけど』

『うん! ありがとう! あ、ここから日本語ね』


 リリアさんはそう言った後、


「わたし、にほんご、がんばる」


 と、日本語で言った。おお、まあまあスムーズかな。俺も嬉しくなったので、


「うん、がんばって。かんたんなことばで、はなすね」


 と、返事をした。


「うん! わたし、にほんご、ショウタと、おはなし、したい」


 ……日本語で言ってニコッと笑顔を見せたリリアさんが、可愛く見えた。


 …………。


 ……はっ!? お、俺は何を考えているのだろう。り、リリアさんの日本語の練習だ、ちゃんと手伝ってあげないと……。

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