第1話「転校生のその子は」
高校――義務教育ではないが、今の時代みんなが通う。もはや当たり前のこととなっているため、誰も疑問は持たない。もしかしたら中学校を出て働いている子もいるかもしれないが、少数だろう。
俺、
俺は『普通の高校生』として、高校生活を満喫……しているように見せかけて、もしかしたらそうでもないかもしれない。というのも、クラスに友達はいない。完全なひとりぼっちだ。
いじめられているのかって? そうではない……と思いたい。とにかく人と関わるのがめんどくさいと思っている。これは小さい頃からそうだった。友達なんていらない。学生が大事なのは勉強だ。そう思って勉強はしっかりとやってきた。クラスで一番、学年で一番なのは当たり前。そこが俺の定位置だ。
勉強ができることで人が寄って来るのではないかと思われるかもしれない。俺は言い寄ってきても無視することを決め込んでいた。もしかしたら冷たい奴かもしれないが、そのおかげでクラスで話しかけられることがなくなった。それでいいとずっと思っている。
「おい、そういえば転校生が来るらしいぞ」
「マジ? 可愛い女の子だったらいいなぁ」
クラスメイトが話す声が聞こえる。よくそんなどうでもいいことで盛り上がれるなと思った。可愛い女の子が来る? 漫画の読みすぎだろ。俺も勉強の息抜きに漫画を読むことはあるが、そんな都合のいい話があるわけない。
そんなどうでもいい話がクラスのあちこちで行われていた。みんなアホなんじゃないか。心の中ではそう思いながら俺は教科書に目を通す。二年生になっても勉強は真面目にやるつもりだ。俺は勉強オタクだ。それは間違いないと胸を張って言える。
「おーい、席についてくれー」
先生が来てみんなが席に座る。俺は『わたぬき』という名字なので、もちろん出席番号は一番最後。廊下側の一番後ろに座っている。ここは最高だ。教室の出入り口も近く、いちいちクラスメイトと顔を合わせずに済む。今日もそっと教室に入ってそっと座っていた。
「えー、二年生が始まって二日目だが、今日から転校生が来ることになっていてな。おーい、入って来てくれ……って、日本語で言っても分からないか」
そう言って先生が教室の前方の扉を開ける。ちょいちょいと手招きをしているみたいだ。日本語で言っても分からないかって、どういうことだろうかと思った次の瞬間、俺は目を疑った。
「……あ」
小さな声でそう言ってしまった。教室に入って来たのは、明るい栗色のショートカットで、目が二重で大きく、少し彫りが深く、鼻も高く、どこかハーフを思わせるような顔立ちの女の子だった。
「えー、転校生を紹介する。リリア・ルフェーブルさん。えっと、自己紹介ってなんていうんだっけか……」
先生がそう言った後、「self-introduction」と言った。それは英語……と思ったが、リリアと紹介された子は笑顔でうんうんとうなずき、
「あ、わ、わたし、リリア。よろしく」
と、日本語で言った後、ペコリとお辞儀をした。けっこう顔が綺麗で、なんだか可愛らしい感じ……って、おいおい、俺は何を考えているのだろうか。まさか朝会ったあの子が転校生だったなんて。あの後学校まで一緒に来て、正面玄関の方に案内したんだよな……まぁ、あの子がけっこう目立つため、俺もなんかチラチラと見られていたような気がしたが……まぁいいや。どうでもいい。
「……あ!」
その時、リリアという子が声を上げた。なんだろうと思った瞬間、俺とバッチリと目が合ってしまった……と思ったら、すごい勢いでこちらの方に来て、
『朝はありがとう! 私リリア・ルフェーブル。同じクラスだったんだね!』
と、流暢なフランス語で言った。その瞬間、教室がざわっとなった。まぁ、俺に話しかける人なんてそうそういないからな……って、そうじゃなくて! なぜか俺の左手をきゅっと握るその子がいた。
『あ、ああ……よ、よろしく』
俺も一応フランス語で返事をするが、教室がざわざわしている。二年生二日目にして、こんなに勉強以外のことで目立ってしまうなんて……俺の左手をニコニコ笑顔で握る彼女を見て、俺は頭を抱えたくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます