勉強しか興味がなかったのに、転校生に翻弄されています。

りおん

プロローグ「ちょっとした出会い」

 春といえば、桜が咲き、気温も上がってきて、心もほっとする。そんな季節なのではないかと思っている。


 俺は高校二年生になったばかりだ……とはいえ、そんなに大きな変化はない。まぁクラスが変わらないというのもあるのだが、そんなことはどうでもいい。どのクラスになろうが俺には関係ないことだ。


「……行ってきます」


 キッチンにいた母さんに一言つぶやいて、俺は家を出る。いつもの朝、いつもの通学路。何も変わらない。それが心地いいと思っていた。


 俺は学校まで電車で通学している。家から最寄り駅までは歩いて十分くらいだろうか。雨の日はめんどくさいが、歩くという運動も大事だ。今日は晴れているのでなんだか気持ちがいい。心が軽くなる俺は単純なのかもしれない。


 駅に着き、いつものように定期券を取り出し、改札をくぐろうとした……その時だった。


(……ん? あれはうちの高校の子……? なんで立ち止まっているんだろう)


 改札の手前で、キョロキョロと辺りを見回している子がいた。制服からするとうちの高校の女の子だ。明るい栗色のショートカットの子。おかしいな、うちはたしか髪を染めるのは校則で禁止されているはずだが……?

 その子を見ていると、手元のスマホと電車の行先や時刻の表示板を見ているようだ。もしかして電車が分からない……? いや、そんなことはあるはずがないよなと思ったその時、その子がこちらを見た。


「……あ」


 俺は思わず声が出てしまった。その子は目が二重で大きく、少し彫りが深い。鼻も高く、どこかハーフを思わせるような顔立ちで、どうやら日本人ではないようなのだ。あれ? 日本人ではない……? しかしなぜうちの高校の制服を着ているのだろうか。


 その子は少し困ったような顔をしていた。もしかして本当に電車が分からないのか……? そう思っていると、


『……あ、あの、同じ高校……?』


 と、話しかけられた。あ、これは日本語じゃないな、どうやらフランス語のようだ。『lycée』という言葉が聞こえた。俺はとっさに頭をフランス語モードにする。


『あ、ああ、同じ高校だけど……』


 俺も短い言葉で返事をした。なぜフランス語が話せるのかという疑問が湧くだろうが、俺は趣味が勉強といっても過言ではないくらい、勉強オタクだ。学校で習う英語はもちろんのこと、フランス語、スペイン語あたりは独学で日常会話程度ならできる。

 ……それはいいとして、とっさに反応したが、伝わったかなと思っていると、


『……あ、フランス語できるんだね。あの、どの電車に乗ればいいのか分からなくなって……』


 と、その子は言った。なるほど、やはり電車が分からなかったのか。俺はどうしようかと悩んだが、言葉で説明するよりついて来てもらった方が早いのかなと判断した。


『あ、ああ、俺も学校に行くから、ついて来てもらえれば』


 俺がそう言うと、その子はパァッと顔が明るくなった。


『あ、ありがとう! これをタッチすればいいの?』


 その子が俺に何かを見せてきた。ああ、定期券か。俺はコクリとうなずき、『こうやるんだよ』と言って改札を通った。その子は『な、なるほど……えいっ』と言って改札を通った……って、そんなに気合い入れるところなのかな。


『ここで待ってれば、電車が来るから』

『な、なるほど……ありがとう。助かった!』

『いえいえ』


 そんな話をした後、俺とその子は電車に乗る。しかしフランス語を話しているということはフランス人か……? まぁそれなら電車が分からなくても仕方ないか……って、そんなのは知ったことではないが。どうでもいい。

 俺はぼーっと電車の窓から外を見ていた。

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