第12話「そうだ、学食に行こう」

 新しい学年が始まって二週間くらい経った。

 俺は今まで通り勉強を怠ることなく、真面目に取り組んでいる。しっかりと勉強していくことが俺のポリシーだ。言い過ぎだと思われてもいい。俺は俺の道を進んでいく。


 ……と思っているのはいいが、困ったことがあった。


『ねぇショウタ、今日はいつものところに行かないの?』


 俺の隣からフランス語が聞こえる。もちろんここはフランスではない。日本だ。

 リリアさんがニコニコ笑顔で俺の顔を見る。昼休みになり、みんなは「一緒に食べよー」と言って席をくっつけたりしている。俺に言ってくる人はいない。そりゃそうだ、俺はひとりぼっちだからな。


 しかし、今日は朝パンを買うのを忘れていて、昼飯がなかった。しまったな、売店に何か買いに行くかと思っているのだが、リリアさんが左手をきゅっと握って離してくれそうになかった。


『あ、ああ、今日はパンを買うのを忘れたから、売店に行こうかなって』

『そっか、じゃあ私も行く!』


 そう言って俺を引っ張るようにして立つリリアさんだった。まぁこうなるよな……今までの経験上気づかないという方がおかしいというものだ。


 リリアさんと一緒に売店に向かう。廊下の角を曲がった先に学食があり、その先に売店がある。いつも人気なのであまり行かないが、今日は仕方ない。そんなことを思いながら学食の前を通り過ぎようとしたその時、


『……あ、ねぇショウタ、ここレストラン?』


 と、リリアさんが学食を指さして言った。


『ん? ああ、学食っていう、まぁレストランみたいなものかな』

『へぇー、そうだ、今日はここに行こうよ!』

『え!? い、いや、それは……』

『えー、いいじゃん、行こうよー』


 そう言ってリリアさんが俺の手を引いて学食に入って行く。うーん、学食も人気があって人が多いから、あまり行きたくないんだけどな……でも、リリアさんが楽しそうなので嫌だと言いづらかった。


『へぇー、たくさん人がいるねー! あ、食べ物持ってきてる人がいる』

『ああ、あそこで食券を買って、カウンターに持って行くと出してくれるよ』

『そうなんだねー、食券かぁー、ちょっと買ってみたいかも!』


 リリアさんが俺を引っ張るようにして食券機の前に来た。や、やっぱりここで食べるのか……まぁ仕方ないか。俺は何を食べようかな、ここはカレーにするか……と思ったところで、そういえばリリアさんはお弁当なのではないかと思い出した。いつもサンドイッチやパンを持ってきているからだ。


『リリアさんは、お弁当があるんじゃないのか?』

『ああ、今日はパンだから、帰っておやつに食べようかなーって!』


 そ、そうか、リリアさんもそこそこ食べる人なんだな……じゃあここで食べるのもありか。リリアさんはおそらく食券機に書かれている日本語が読めないはずなので、俺が『これはカレー、これは親子丼……』と教えてあげた。


『んー……ショウタと同じカレーにする!』


 そう言ってリリアさんが食券を買った。カウンターのところのおばちゃんに渡すと、「あらー、可愛い子ね、外国の子かしら、ちょっと待ってねー」と言っていた。その後すぐに「はいどうぞー」と、カレーを出してくれた。


「あ、ありがとう」


 リリアさんがそう言うと、おばちゃんは「あらーどういたしまして、日本語話せて偉いわねー」と言っていた。


『わぁ! これが日本のカレーかぁ! すごいすごい!』

『フランスでカレーって食べることあるのか?』

『たまーに食べてたかなぁ、フォン・ド・ヴォーをベースにして、牛肉や野菜がたっぷり入ってるのを食べたことある!』


 なるほど、欧風カレーとはまた違うのかな、フレンチカレーとでも言うのだろうか。日本のカレーとはまた違うんだろうなと思った。このカレーはリリアさんの口に合うのだろうか……。

 人は多かったが、俺たちはなんとか席に座ることができた。


『ショウタ、いただきますって日本語でどう言うの?』

『ああ、こう言う』


 俺は「いただきます」と日本語で言った。


「いただきます!」


 俺が言った後に、日本語で大きな声で言うリリアさん。あああ、周りの人がこっちを見ている……俺は恥ずかしくなった。


『り、リリアさん、もうちょっと小さな声で……』

『ああ、ごめんごめん、食べてみよっと!』


 そう言ってリリアさんが一口いただく。


『んむんむ、美味しい! これが日本のカレーだね!』


 笑顔で「おいしい、おいしい」と言うリリアさんだった。ま、まぁ、美味しいのならよかった。

 俺もほっとしてカレーを食べる。な、なんかちらちら見られている気がしたが、嬉しそうなリリアさんを見ると、周りの視線はどうでもいいと思った。

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