第11話「はじめてのともだち」

 それから、俺の部屋でリリアさんとしばらくのんびりしていた。


『ねぇショウタ、こんなに話しているのに、RINE教えてなかったね、よかったら登録しない?』


 急にそんなことを言うリリアさんだった。RINEとはメッセージアプリだ。今やスマホを持つほとんどの人が使っているといってもいい。


『ま、まぁ、いいけど……』

『やった! ちょっと待ってね……はい、私のこれ!』


 そう言ってリリアさんがスマホを見せてきた。とりあえず俺もスマホを取りだし、リリアさんのRINEを登録する……って、これだとまるで友達同士ではないか。そうではない。あくまでリリアさんはクラスメイト。まぁ俺はひとりぼっちだから、こうしてクラスメイトとRINEを交換したことなんてないのだが。


『ありがとう! あ、ちょっと送ってみる!』


 リリアさんがポチポチとスマホを操作している。そしてピコンと俺のスマホが鳴った。見るとリリアさんから『よろしく』と日本語で書かれたRINEが送られてきていた。


『あ、リリアさん、これ日本語の勉強になるんじゃないかな? ひらがなだったら読めるかな?』

『ああ! そうだね、うん、ひらがな少し読めるから、たぶん大丈夫だと思う!』

『そっか、じゃあひらがなで送るようにしようか。返事は難しかったら英語でもフランス語でもいいから』

『ありがとう! でもなるべく私も日本語で送るようにする!』


 俺もとりあえず『よろしく』とリリアさんに送った。リリアさんが嬉しそうだ。文字をスマホで見るのもいい勉強になるだろう。


 …………。


 ちょっと待て。なんかやはり友達同士のようなやりとりではないか。そうではない。リリアさんは俺のクラスメイト――


『……ショウタ、気にしてたらごめんね。ショウタは他に友達いないの?』


 その時、リリアさんが真面目なトーンで訊いてきた。さっきまでの笑顔とは違って、ちょっと悲しそうな顔をしていた。


『え、あ、まぁ、俺はひとりぼっちだからな……』

『そっか、クラスで他の人と話しているの見たことなかったから、気になっちゃった……ごめんね』

『い、いや、リリアさんが謝ることないよ。俺は一人がいいんだ。友達なんていらないって思ってる』


 俺がそう言うと、リリアさんはますます悲しそうな顔をした。あ、あれ? なんかよくないこと言ってしまったのだろうか。その時――


『……ショウタ、私が友達になっちゃ、ダメ……?』


 俺の目を見て、リリアさんが言った。その顔は真面目な顔だ。二重の大きな目で俺のことを見てくる。俺はその目を見て――


『……あ、ま、まぁ……』


 友達。

 

 俺が小さい頃からずっといらないと思っていたもの。

 

 でも、リリアさんは俺と友達になりたいと言ってくれている。

 

 嫌だって言うのは簡単だ。でも、リリアさんの目を見ると、俺は、俺は――


『……わ、分かった、と、友達……に、なろう』


 ぽつぽつと、フランス語で言った。恥ずかしくなって顔が熱くなっていると、


『やった! ショウタ、ありがとう! じゃあ、これからもよろしくお願いします』


 リリアさんがそう言って手を出してきた。俺はリリアさんの手をそっと握った。俺より小さくて、あたたかい手。リリアさんの手の温もりが、俺にダイレクトに伝わってくる。


『あ、ああ、よ、よろしくお願いします……』


 俺は恥ずかしくなってリリアさんの目を見れなくなった。

 友達……か。本当によかったのか分からないが、不思議と悪い気分ではなかった。


『うん! あ、ショウタ、よろしくお願いしますって、日本語でどう言うの? ヨロシクとは違うの?』

『あ、ああ、ちょっと長いけど、大丈夫かな……』


 俺はそう言った後「よろしくお願いします」と、日本語で言った。『まぁ、よろしくでもいいと思うよ』と、フランス語でつけ加えた。


『そっか、ちょっと長いね、でも……』


 リリアさんはそう言った後、


「よ、よろしくおねが……いします」


 と、なんとか日本語で言うことができた。


「あ、ああ、よろしくお願いします……」


 俺も日本語で返事をした。


『うん! えへへ、ショウタと友達になった! あ、ということは私がショウタにとって初めての友達ってことだよね!? それも嬉しい!』

『ま、まぁ、そういうことになるな……って、リリアさん、手つなぎっぱなしだけど、いつ離してもらえるんだ……?』

『えー、ショウタのケチー。あ、ショウタ、日本語教えてくれる? ひらがなは読めるようにはなってきたけど、書く方がなかなか難しくて』

『そうか、分かった、じゃあちょっと勉強しようか。俺も勉強したいと思ってたところだ』

『うん! ショウタと勉強する!』


 それから俺たちはテーブルで、一緒に勉強をしていた。

 ひらがなを書いて嬉しそうなリリアさんを見ると、俺も嬉しい気持ちになった。


 そんな感じで、俺に初めての友達ができた。

 

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