第13話「リリアさんのお家」
日曜日、俺はいつものように勉強をしていた。
これまでの復習に加えて、さらに先の内容も予習をしておく。何度も言うが俺は勉強オタクだ。勉強が友達。それでいいと思っていた。
……しかし、そんな俺に初めての『友達』ができた。
リリア・ルフェーブル。
明るい栗色のショートカットで、目が二重で大きく、少し彫りが深く、鼻も高く、どこかハーフを思わせるような綺麗な顔立ちの女の子。
彼女が、俺の初めての友達だった。
リリアさんの学校での様子をこれまで見てきたが、勉強はそこそこできるようだ。英語はもちろん完璧として、意外と数学が得意だということが分かった。さすがに日本語が分からないので、俺が問題文などを翻訳してあげるのだが、そこそこ解いていく。あとは地理が好きなようだった。元々フランスにいて日本に来たのだ、世界に対する興味みたいなものだろうか。
……そんな、人のことはどうでもいいと思っていた俺だが、リリアさんと接するうちに、少しずつ自分も変化しているように思えた。これが友達というやつなのか……? 初めての感覚で、俺はなんと言えばいいのかよく分からなかった。
(……まぁ、リリアさんだから、友達になれたのかもしれないな……)
そんなことを思っていると、ピコンと俺のスマホが鳴った。RINEが来たみたいだ。俺はスマホを確認する。
『しょうた、すうがく、わからない』
送ってきたのはリリアさんだ。まぁ俺はずっとひとりぼっちだったから、今までRINEをする人なんて両親くらいしかいなかったのだが。
もしかしてリリアさんも勉強をしているのかな、そう思って返事を送る。
『りりあさんも、べんきょうしてる?』
『うん、べんきょうしてる』
『そっか、おれもべんきょうしてた。おしえてもいいけど』
そうやりとりをした後、急にスマホに通話がかかってきた。どうやらリリアさんがかけてきたみたいだ。俺は通話に出る。
『もしもし、どうした?』
『もしもし、ショウタ~、数学難しいよー、助けて~』
『あ、ああ、それはいいけど、うちに来るか?』
『あ、それなんだけど、うちに来てくれない? パパとママがショウタに会いたいって!』
ああ、なるほど、リリアさんのお父さんとお母さんか。
…………。
いや待て待て待て! お、お父さんとお母さんに会うって、一大イベントではないか。もしいかついお父さんがいて、『リリアと友達という話は却下だ!』とか言われたら……。
……ん? 俺は何を考えているのだろうか。
『……ショウタ? どうかした?』
『あ、い、いや、いかつい姿を想像してしまって……』
『え? なんのこと? とにかく来て来てー、五〇一だよー』
それだけ言うと、通話が切れてしまった。ま、マジか……お父さんお母さんと会うのめちゃくちゃ怖いんですが……。
まぁ、仕方ない。俺も男だ、覚悟を決めよう。なんの覚悟だろうか。
リビングにいた両親に、「ちょっと出かけてくる」と声をかけて、俺はエレベーターに乗り、五階までやって来た。五〇一か、一番端なので分かりやすい。ふーっと息を吐いてとりあえずインターホンを押す。すぐにドアが開いたと思ったら――
『あ、ショウタ! いらっしゃい!』
いつものフランス語が聞こえてきた。リリアさんだ……ん? そのリリアさんに隠れるようにして誰かいる……?
『エマ、どうしたの? こちらが話してたショウタだよ?』
リリアさんがエマと呼んだその子は、まだ小さい。小学校低学年くらいの女の子だろうか。リリアさんと同じ明るい栗色だが、髪が長かった。二重の大きな目で俺のことを見てくる。
『……ショウタ?』
ぽつりと、その子が俺の名前を呼んだ。あ、もしかしてリリアさんの妹さんだろうか。よ、呼ばれたからには自己紹介しないと。
『は、はじめまして、綿貫翔太です』
小さな子相手にちょっと丁寧な言葉遣いになったが、まぁいいか。その子の目線に合わせて屈んでフランス語でそう言うと、その子はパァッと明るい表情をして、
『ショウタ! わたしエマ!』
と言って、がばっと俺に抱きついてきた。
「ど、どわっ!」
危うく尻もちをつくところだったが、なんとか踏みとどまった。エマちゃんは俺にぎゅっとくっついて離れない。なんだろう、俺もついに幼女に好かれるようになったか。ついにってなんだ。
『あはは、ごめんねショウタ。エマは私の妹なの。ショウタの話したらね、会いたいってずっと言ってて』
『あ、そ、そっか……』
『うん、あ、上がって! パパとママが待ってるよ!』
俺は唾をごくりと飲み込み、『じゃ、じゃあ……おじゃまします』と言って上がらせてもらった。ついにリリアさんのお父さんお母さんと会うのか……変な汗が流れてきたような気がする。
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