第14話「リリアさんのパパとママ」

『上がって! パパとママがリビングで待ってるよ!』

『じゃ、じゃあ……おじゃまします』


 俺は唾をごくりと飲み込み、覚悟を決めて上がらせてもらった。エマちゃんがずっと俺の手を握っている。気に入られてしまったのだろうか。


 それはいいとして、リビングに案内された。するとそこには――


『紹介するね、私のパパとママ。パパ、ママ、こちらがショウタ』


 リリアさんがフランス語でそう言うと、奥に座っていた男の人がスッと立ち上がった。で、でかい……背は俺をゆうに超えていて、なんだかがっしりとした人だった。顔は鼻が高く、あごひげが少しある。欧米人の男性らしい人だった。


『君がショウタくんか! はじめまして、リリアの父のロイ・ルフェーブルです』


 お父さんが手を出してきたので、俺も手を出して握手をする。手も大きい……なんか全てにおいて負けている気が……って、お、俺も自己紹介しないと。


『は、はじめまして、綿貫翔太といいます……』

『ふむ、フランス語も完璧じゃないか! こんな素晴らしい青年が日本にもいるとは! あっはっは』


 お父さんが笑っていた。俺も同じようにニコッと笑顔を作るが、緊張で引きつっている気がした。

 その時、キッチンの方から女の人がやって来た。


『ああ、君がショウタくんね……って、私はフランス語じゃなくてもいいわね』


 そう言った女の人が、


「はじめまして、リリアの母の翔子・ルフェーブルといいます」


 と、笑顔で言った。お母さんもそこそこ背が高い。スタイルもよくて鼻筋がシュッとしていて綺麗な人だった。


「は、はじめまして、綿貫翔太といいます……」

「うんうん、よろしくね。ちょっと気になったんだけど、ショウタくんはどういう漢字なのかしら?」

「あ、翔ける方の『翔』と、太いの『太』で、翔太です」

「ああ! じゃあ私の『翔』と同じ漢字じゃない! ふふふ、なんか親近感が湧くわねー」


 お母さんがそう言って笑っていた。俺もまた笑顔になるが、やはり緊張のせいかうまく笑顔になっていない気がした。


『まあまあ、そこに座ってくれ。ママ、すまないがショウタくんに飲み物を出してあげてくれるか?』

『はいはい、翔太くん、コーヒーでも大丈夫? あ、ごめんねフランス語で』

『あ、は、はい、大丈夫です……すみません』


 お母さんがパタパタとキッチンの方へ行った。俺は『し、失礼します……』と言ってソファーに座らせてもらった。


『ショウタくんは、リリアに色々と教えてくれてるそうだね』


 お父さんの言葉を聞いて、俺はドキッとした。こ、これは、『お前なんかに私のリリアを任せることはできない!』っていう、定番のアレだ……! 定番ってなんだろうか。また変な汗が流れてきた気がする。


『あ、は、はい、学校ではフランス語話せるの俺くらいなので、色々と……』

『そうかそうか! ありがとう。リリアもね、楽しそうに学校生活を送れているみたいなんだ。きっとショウタくんがいてくれるからだね』

『うん! ショウタのおかげで、私学校が楽しいよ!』

『あ、そ、それはよかったです……あはは』


 お父さんもリリアさんも笑顔だ。ま、まぁ、さっきも言ったが学校でフランス語を話せるのは俺くらいなので、リリアさんも俺に頼るのも仕方ないというか。


『うむ、ショウタくんがいてくれるからよかったと思ってね。実はリリアをあの高校に転校させたのは、私が高校の理事長と知り合いでね。日本に引っ越してくることになって、なんとかリリアを通わせてくれないかと理事長にお願いしたのだよ』


 お父さんが笑顔で話を続けた。な、なるほど、学校の理事長と知り合いだったのか。お父さんは何者なのだろうか。まぁ、そこはどうでもいいか。


『あ、な、なるほど……』

『でも、周りは日本人ばかりだから、リリアが馴染めるか心配でね。それでも毎日楽しそうに学校に行くのは、ショウタくんがいるからだと知ってね。私も嬉しくなったよ』


 お父さんがそう言ってあっはっはと笑った。ま、まぁ、リリアさんが学校が楽しいと思ってくれるなら、それでいいか……。


『ま、まぁ、俺は大したことはできてませんが……でも、俺も初めて友達ができて、よかったなと思います……』

『うむ、これからもリリアの友達として、よろしく頼むよ。ショウタくんにならリリアを任せることができるな!』

『あ、は、はい、こちらこそ……よろしくお願いします』

「ふふふ、よかったわね。はいどうぞ、コーヒー飲んでね」


 お母さんがコーヒーを出してくれた。


「あ、ありがとうございます」

「ふふふ、それにしても翔太くん、フランス語上手ね。独学なの?」

「あ、はい、独学で勉強してて……勉強は好きだから」

「そうなのね、すごいわぁ。これからもリリアをよろしくね」


 お母さんも笑顔でそう言った。あ、あれ? お父さんもお母さんも、予想していた言葉とはちょっと違ったような……まぁいいかと思っていた俺だった。

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