第32話「家族同士のお付き合い」

『そうかそうか、ショウタくんは学校の成績も一番なのか! それは素晴らしいね、いい青年だ、あっはっは』

「まぁ、小さい頃から勉強ばかりしてきましたから。でもリリアさんがお友達になってくれて、嬉しかったですよ、あはは」


 父さんとお父さんが楽しそうに話している。翻訳は俺とお母さんがしていて、大人たちも会話を楽しむことができている。まぁよかったかな。


『おにいちゃん、おにくおいしい』

『ああ、ほんとだね、どんどん焼けてるから、エマちゃんもたくさん食べてね』

『うん、エマ、たべるのすき。リリアもたべるのすき』

『そうだね、リリアさんも食べてる?』

『うん! 美味しいねー、なんか外で食べるっていうのが楽しい!』


 たしかに、外で食べるというのは特別感があって楽しかった。俺はこんな経験はないだけに、たまにはいいなと思った。


「ふふふ、翔太もリリアちゃんも、仲良くやってくれてて嬉しいですねー」

「ほんとですねー、あ、もう敬語はやめにしません? 私たち年齢も一緒ですし」

「ああ、そうね、敬語だとなんかよそよそしい感じがするからねー、でも一緒のマンションだなんて、すごい偶然ねー」

「ほんとに、そんなこともあるんだなぁって。でも翔太くんがいてくれてほんとにありがたいわー。リリアも楽しそうだからね」


 母さんとお母さんも楽しそうに話している。ま、まぁ、仲がいいのかはよく分からないが、友達だからな……と言いかけて、恥ずかしくなってやめた。


『ショウタくん、リリアとエマと仲良くしてくれてありがとう。最近はエマもおにいちゃんおにいちゃんとよく話すんだ。二人とも気に入ったみたいでね』

『あ、いえ、俺も友達になってくれて、自分が変わったというか……それが嬉しい気持ちもあって』

『そうかそうか! ショウタくんになら、リリアをお嫁に出しても全然問題ないな! リリア、どうだい? そのつもりはないかい?』

『え!? あ、いや、その……』

『ぱ、パパ!? ご、ごめんねショウタ、変な話になっちゃった……あはは』


 恥ずかしそうなリリアさんだった……って、お、俺もだいぶ恥ずかしい……。

 お母さんが今の話を父さん母さんに翻訳している。あああ、それはスルーしてくれていいのに……!


「翔太、よかったな、お嫁さんができて」

「ほんとよー、こんな可愛い子がお嫁さんになってくれるなんて、嬉しいわぁー」

「い、いや、だからそれは……」


 父さんと母さんもまんざらでもない顔をした。ちょ、ちょっと待て、いろいろすっ飛ばし過ぎなのではないか……リリアさんは友達であって、恋人というわけでもないのに……。


『……でもショウタ、ショウタなら私……いいよ?』


 恥ずかしそうに言うリリアさんが、可愛く見えた。


 …………。


 ……え!? い、いいよって……?


『え、あ、ま、まぁ、考えておく……って、なんのことだろう』

『ふふふ、ショウタ真っ赤になってる。可愛いところあるね』

『おにいちゃん、かおがあかい』

『え!? あ、そ、そうかな、そうでもないと思うけどね……あはは』


 う、うう、友達というのはこんなに恥ずかしいものなのだろうか……顔が熱い。

 

 ……でも、不思議と嫌な気分ではなかった。それはきっと、リリアさんだからだろうなと思った。日本人ではこうはいかない。俺もとことん人付き合いが苦手のようだな。


「翔太くん、リリアとエマにいろいろ教えてくれてありがとう。パパも言っていたけど、二人ともよく翔太くんの話しててね、楽しそうだからよかったなって思っているのよ」

「あ、いえ、俺なんかでもお役に立てているのなら、よかったなと思っていて……」

「うんうん、これからも二人をよろしくね。あーなんか本当に自分の息子みたいな気持ちになってきたわー」


 お母さんが笑顔で言った。

 リリアさんもエマちゃんも、日本という異国の地で頑張っているのだ。幸いフランス語ができる俺なら二人に教えられることも多いだろう。その気持ちも嫌ではなかった。


 ……ん? 不思議なものだな、何度も言うが、少し前まで友達なんていらないと思っていたのに、こんなに自分が変わるとは。黒瀬さんが言っていたように、外国の人だからこそ受け入れたんだろうな。


『あ、そういえば学校で私とショウタに友達が増えたよ! フウカっていう勉強ができる女の子!』

『おお、リリアもどんどん友達が増えているな、いいことだ、あっはっは』

「あ、翔太、浮気はダメだぞ、リリアさんがいるんだからな」

「……ええ!? あ、ま、まぁ……」


 なんだか恥ずかしい気持ちはありながらも、楽しそうなみんなを見て、家族でのお付き合いも悪くないなと思っていた俺がいた。

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