第33話「あめあめふれふれ」
六月といえば、梅雨の季節だ。
今年ももれなく梅雨の時期となった。毎日のように雨が降っている。雨だと歩くのが面倒だが、文句を言っても仕方ない。今日もいつも通りの朝……と思わせて、
『ねぇショウタ、日本って、雨がよく降る時期があるって本当?』
と、流暢なフランス語が聞こえてきた。もちろんリリアさんだ。今日も朝から我が家に突撃して来たリリアさんと一緒に登校をしている。雨なので傘を差しながら。
『ああ、梅雨といって、毎年この六月くらいは雨になるよ』
『へぇー、ツユっていうのかぁー、フランスにはなかったなぁ。あ、でもフランス北部の方は雨が多かったかも!』
『そっか、まぁフランスも地方によって雨が降りやすいところとかあるんだな』
『うん! あ、それと、昨日ママが歌を教えてくれたよー!』
リリアさんはそう言って「あめあめ、ふれふれ、かあさんが~」と、日本語で歌い始めた。お、おお、その歌を覚えたのか。たしか『あめふり』だったっけ。
『おお、リリアさん日本語の歌、上手だね』
『えへへー、すごいでしょ! カアサンってママって意味だよね、でもジャノメ? って、なに?』
『ああ、蛇の目傘っていう、傘があるんだよ。今はそんなに見かけないけど、昔の人は使ってたんじゃないかな』
『へぇー、ジャノメガサかぁー! 覚えたかも!』
リリアさんが「じゃのめ、じゃのめ」と楽しそうに言っている。ま、まぁいいか。
電車に乗ってから、俺はスマホで蛇の目傘を調べて画像をリリアさんに見せた。リリアさんは『へぇー、綺麗な傘だねー!』と言っていた。
まぁ、リリアさんにとっては雨も楽しいものなのかな。なんでも新鮮に映るのだろう。そういう気持ちも大事かなと思った。日本人はどうしても『梅雨なんてじめじめしててうぜぇ』と思ってしまうからな。ちょっと偏見だろうか。
電車が学校の最寄り駅に着き、また傘を差して歩いて、学校に着いた。俺は持っていたタオルでちょっと濡れてしまった鞄などを拭いていた。
『リリアさん、濡れてないかな?』
『うん、これくらい大丈夫! ショウタ優しいね』
そ、そうでもないと思うが、まぁいいか。教室に入り、いつものように席をくっつけてくるリリアさんだった。
『――二人仲良く登校ですか、いいですね、仲がよくて』
その時、流暢な英語が聞こえた。見ると学級委員……じゃなかった、黒瀬さんがいた。
「あ、フウカ! おはよう!」
日本語でそう言うリリアさんだった。
「あ、おはようございます」
黒瀬さんは日本語でそう言った後、英語で続けた。
『リリアさんは挨拶くらいなら日本語を覚えたのですね、とてもいいことです』
『うん! ショウタに教えてもらってるよー! アリガトウとかも言えるよ!』
『そうですか、綿貫くんも優しいですね』
『え、そ、そうでもないと思うが……』
『……恥ずかしがらなくていいんですよ。あ、話は変わりますが、今月末はテストがありますね。まぁ綿貫くんは今回も完璧なのでしょうね』
黒瀬さんが真面目な顔で言った。そうだ、黒瀬さんの言う通り、今月末はテストがある。俺ももちろんそのことは覚えていて、しっかりと準備をしているところだ。何度も言うが俺は勉強はクラスで一番、学年で一番なのでな。
『ああ、そうだな、今回も一位をとらせてもらうよ』
『……綿貫くんが言うと説得力がありますね。それはいいのですが、リリアさんのテストはどうなるのでしょうか? 私たちと一緒というわけにはいかない科目もありそうですが』
あ、たしかにそうだな、リリアさんのテストはどうなるんだろう。特に国語は俺たちとは学んでいることが違う。何かリリアさん専用のテスト問題が出るのだろうか。
『あ、たしかに……リリアさんは俺たちとはたぶん違うよな……どうなるんだろうか』
『え? テストがあるの? わぁ、日本で初めてのテストだ! ドキドキする!』
『なんだかリリアさんはテストも楽しんで受けそうですね。先生方に訊けば何か分かるでしょうか』
『ああ、そうだな、リリアさんもテスト勉強があるだろうし、先生に訊いてみるのもよさそうだな』
『じゃあ私が先生方に訊いてみることにしましょう。勉強自体は綿貫くんが教えてくれるでしょうし』
『え、あ、俺なのか……?』
『もちろんです。隣の席で、学年一位の綿貫くんがピッタリじゃないでしょうか』
『あ、テストに向けて勉強するの? うん! ショウタが教えてくれる!』
『あ、ま、まぁ、俺でいいんだったら……』
な、なんか女の子二人に押されている気がする。まぁ教えるのは今までもやってきたしな……仕方ないと思っていた俺だった。
テストに向けて頑張りたい気持ちは三人とも一緒だった。
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