第34話「テスト前の勉強を」
『先生方に訊いたところによると、リリアさんのテストはやはり特別な問題が出されるようです。基本は英語の先生が英語に翻訳してくれるのだとか』
黒瀬さんの流暢な英語が教室に響く。何度も言うがここはアメリカではない。日本だ。
ある日の放課後、俺とリリアさんと黒瀬さんは、教室に残っていた。テスト前ということで勉強をしていこうと話していたからだ。
それはいいとして、そうか、リリアさんの問題はやはり特別なものになるか。そりゃそうだよな、俺たちと同じだったらさすがに分からない科目があるだろう。
『ふむふむ、私もテストを受けられるってことだね! なんか楽しみ!』
明るい声でそう言ったのはリリアさんだ。テストといえば嫌な気持ちになるのが普通だろう。しかしリリアさんはふんふんと鼻息を荒くしてなんだか楽しそうだ。学ぶことが好きなのかもしれないなと思った。
『なるほど、しかし出題範囲みたいなものが分からないと対策の立てようがないな……』
『大丈夫です、そこも訊いてきました。英語、社会は私たちとほぼ一緒、数学、理科は中学生と高校一年生の時の内容、国語はひらがな、カタカナ、小学二年生までの漢字から出題されることになりそうです』
『お、おお、さすが学級委員だな、しっかりしているというか』
『まぁ、そういうことは私に任せてください。リリアさん、苦手な科目はありますか? 苦手なものから取り組んでいきましょう』
『うーん、やっぱり国語が難しいかなぁ。日本語だいぶ読めるようになってきたけど、書く方が難しくて』
『まぁそうだよな、英語やフランス語よりも覚えることが多いと思う。じゃあ国語をやっていくか』
『そうですね、あ、席くっつけますか。そっちの方がやりやすいでしょう』
そう言って黒瀬さんが俺の前の席をガタガタと動かして、俺の前に来た。隣はもちろんリリアさんだ。
『私と綿貫くんは、それぞれ自分の勉強を進めましょう。その間にリリアさんに教えるということで』
『お、おう、ていうか一緒に勉強する必要あるのか……?』
『もちろんです。一人でやるよりもやる気が出るでしょう。それに、こういう友達と一緒に勉強というのをやってみたかったのです』
『うん! みんなで勉強楽しそうだね! ねぇショウタ、これなんて読むの?』
そ、そうか、黒瀬さんもよく分からない願望があったんだな……まぁいいか。
* * *
しばらく三人で勉強を続けていた。
基本的に俺も黒瀬さんも勉強はできる人なので、お互い知識の確認のようなことをしていた。
そしてその間にリリアさんに日本語を教える。リリアさんもひらがな、カタカナはほぼ分かるようになったな。しかし漢字の方は読み書きどちらも難しいようだ。まぁそんなもんだ、少しずつ覚えていけばいい。
『けっこう勉強しましたね、このあたりにしておきましょうか』
『ああ、なんか初めて友達と勉強したが、こういうものだったんだな』
『うーん、漢字が難しいよー、ショウタ助けて~』
『お、おう、一気には難しいだろうから、少しずつ覚えていくといいよ』
リリアさんは日本語をマスターすると、フランス語、英語と合わせてバイリンガルを超えてトリリンガルになるのか。それもまたすごいなと思った。
ん? お前も同じようなものだろって? 俺はまだまだ日常会話程度しかできない。勉強することは多いのだ。誰に言っているのだろうか。
『難しいけど、少しずつ分かってきたこともあって、なんだか嬉しいな!』
『リリアさんも勉強が好きなようですね、とてもいいことです』
『そうなんだよな、リリアさんから勉強が嫌だっていう声を聞いたことがないよ。俺たち日本人も負けないようにしないとな』
『そうですね、それにしても綿貫くんは本当に変わりましたね。そんな前向きな声、以前は聞いたこともありませんでした。あ、話したことなかったから当然ですが』
『あ、いや、まぁ……自分でもちょっとびっくりしているというか』
周りの人から見ても、俺が変わったように見えるんだなと思った。自分でもそう感じているので、間違いではないのだろう。嫌な気分ではないので、いいかなと思った。
『よーし、テストに向けてしっかりと頑張らないとね! あ、そうだ……』
リリアさんが英語でそう言った後、
「ショウタ、フウカ、ありがとう」
と、笑顔で日本語で言った。
……その笑顔が、可愛く見えた。
…………。
……はっ!? お、俺は何を考えているんだろう。
「こちらこそ、ありがとうございます」
黒瀬さんも日本語でありがとうと言ったので、俺も「あ、ありがとう」と日本語で言った。ちょっと恥ずかしかった。
テストを頑張って受けようとするリリアさんを、応援してあげようと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます