第35話「楽しみなリリアさん」

 テストの日がやって来た。今日から三日間、テストは行われることになっている。


『ねぇショウタ、今日からテストだよね、すっごく楽しみ!』


 朝から明るい声なのは、リリアさんだ。テストが楽しみという人はリリアさんくらいなものだろう。普通の人は嫌なイベントでも、リリアさんにとっては新鮮なようだ。その姿勢を見習いたい。


『ああ、リリアさんすごいね、テストが楽しみって言うのはリリアさんくらいだと思うよ』

『そうなの? ショウタは嫌なの?』

『うーん、まぁ普通かな……でも、今回も一位はとらせてもらおうかなって思ってるよ』

『あはは、ショウタはすごいね! あ、フウカもすごいんだよね!』

『ああ、黒瀬さんにも負けないようにしないとな』


 そう、黒瀬さんも勉強ができる人だ。いつも学年で二位あたりにいると言っていたので、俺も油断してはいけない。俺の一位の座は誰にも渡すことはないのだ。クラスで一番、学年で一番、それが俺の定位置だ。


「リリアさん、綿貫くん、おはようございます」


 その時、俺たちに日本語で挨拶する声が聞こえた。見るとその黒瀬さんがいた。


「あ、フウカ、おはよう!」

「あ、おはよう」

『日本語で挨拶できるって、なんかいいですね。今までそんなに挨拶する人もいなかったので』

『お、おう、そこは英語なんだな……まぁいいや。俺も似たようなものだから、挨拶ってこんなにいいものだったなんて知らなかったよ』

『綿貫くんも変わりましたね。とてもいいことだと思います。あ、テストはみんなで頑張りましょう』

『うん! テスト楽しみだなー!』

『テストが楽しみって言えるリリアさんもいいですね。私たちも見習わないといけないですね』

『そうだな、頑張って受けないといけないな』


 俺たち三人は、それぞれ気合いを入れていた。



 * * *



 数日後、テストも終わり、結果が出た。

 俺はいつも通りクラスで一位、学年で一位をとることができた。大満足の結果だ。リリアさんに教えていたからテストの出来が悪かったとか、そういうことがあってはならない。しっかりと勉強してきてよかったなと思った。勉強オタクの俺らしいな。


『ショウタ、見て見て! 英語百点だったよー!』


 隣の席で嬉しそうなのは、リリアさんだ。おお、英語が百点だったか……って、まぁリリアさんなら当然かもな。

 ちなみにリリアさんは俺たちとテスト問題が違うため、学年順位はつかないことになっているらしい。それも黒瀬さんが先生に訊いて分かったことだった。


『そっか、さすがリリアさんだな。他はどうだった?』

『うーん、地理は好きだからそこそこよかったんだけど、やっぱり国語が難しかったかなぁ。漢字があまりよく分からなくて』

『なるほど、まぁ覚えることが多くて大変だよね。大丈夫、少しずつ覚えていくから』

『うん! ショウタ、また教えてくれる?』

『ああ、俺でよければ教えるよ』

『ありがとう! ショウタ優しいね』


 リリアさんがそう言った後、「ショウタ、ありがとう」と日本語で言った。


 ……日本語で言うリリアさんが、可愛く見えた。


 …………。


 ……はっ!? お、俺は何を考えているのだろう。


『終わりましたね、綿貫くんはどうでしたか?』


 リリアさんと話していると、黒瀬さんがやって来た。


『あ、ああ、そこも英語なんだな……なんとか一位をとることができたよ。黒瀬さんはどうだった?』

『さすがですね、私も二位をなんとかとることができました。あ、別に悔しいとか思っていないので、勘違いしないでください。三人で勉強したおかげですね』

『わぁ! 一位がショウタで、二位がフウカなんだね! すごいすごい! あ、フウカ見て見て! 私も英語百点だったよー!』

『そうでしたか、さすがリリアさんですね。テストは楽しかったですか?』

『うん! とっても楽しかった! また受けたいなーって思ったよ!』

『リリアさんのその前向きな姿勢がとてもいいですね。私たちもやはり見習わないといけないようですね』

『そうだな、俺ら日本人はどうしても嫌なものだと認識しているからな。リリアさんのように楽しんで受けるのも大事かもしれないな』


 テストが楽しいもの……というのはなかなか難しいかもしれないが、リリアさんの前向きな姿勢は見習いたいなと俺も思っていた。

 そんな感じで、テストも終わった。ほっとしている俺と黒瀬さんと、ふんふーんと楽しそうなリリアさんだった。

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