第6話「朝の突撃訪問」

 俺の朝は早い。

 なにも夜通し起きているとか、眠れないとかではない。朝はスッと目が覚めることができるのだ。俺の特技といってもいい。そして着替えてスーッと深呼吸した後、勉強をするのだ。勉強オタクの俺らしいな。


 いつもの時間に起きた俺は、いつも通り勉強をする。今日は数学だ。これまでの復習を行う。うん、いい感じに進めることができたのではないか。


 朝ご飯を食べるためにリビングへ行く。父さんはもう家を出て仕事に行ったみたいだ。母さんがキッチンにいた。俺は「おはよう」と声をかける。


「あら、翔太おはよう、相変わらず早いわね」

「まぁ、いつもどおりだから」

「そうね、そこが翔太のいいところよ。朝ご飯できてるわよ」


 朝は和食が多い。昼にパンを食べたりすることがあるので、朝はご飯がよかった。まぁ母さんにはちょっとめんどくさいことをさせているかもしれない。俺は「いただきます」と言ってありがたくいただく。白いご飯も味噌汁も味わって食べる。


「翔太、二年生になったけど、学校でお友達出来た?」


 突然母さんがそんなことを訊いてくる。俺は一瞬リリアさんの顔が浮かんだが、ふるふると首を振ってリリアさんの顔を消した。何度も言うが友達なんていらないのだ。友達付き合いなんて無駄としか言えず、どうでもいい。


「……いや、俺は一人がいいから」

「うーん、小さい頃から翔太はそうだけど、それもどうなのかなぁって思ってしまうわね」

「そうかな、友達なんかより勉強している方が好きだ」

「ほんとに翔太は勉強が好きねぇ。お父さんもお母さんもそこまでではなかったのに。誰に似たのかしら」


 そう言って母さんが笑った。俺には勉強だけで十分だ。勉強が友達。某サッカー漫画を思い出してしまうな。


「ごちそうさまでした」


 食器をキッチンのシンクに持って行き、俺はいつもの時間までリビングでのんびりすることにした。テレビでは朝のローカルニュースが流れている。お天気お姉さんが笑顔で「今日は快晴で、気持ちのいい一日になるでしょう」と言っている。まぁ天気がいい方が気分も上がるってもんだ。俺も単純だな。


 ピンポーン。


 しばらくのんびりしていると、インターホンが鳴った。あれ? こんなに朝早く誰だ? 宅配便は来ないはずだが……と思って俺が出る。するとそこには――


『――あ、ショウタ、おはよう!』


 聞き覚えのあるフランス語。空耳でしょうか。いいえ違います。ニコニコ笑顔のリリアさんです。

 俺は開けた玄関のドアを一旦閉めた。落ち着け俺、あれはまぼろしだ。リリアさんの幻影を見ているのだ。やっぱり昨日からちょっとおかしいみたいだな。


「――あら? 誰か来たんじゃないの……って、ドアの向こうから何か声が聞こえるわよ」


 母さんがやって来て不思議そうな顔をした。ま、まずい、向こうにいると思われるリリアさんの幻影を母さんに見せるわけにはいかない。しかし母さんもリビングに行かないし、ドンドンドンとドアを叩く音もする。大ピンチだ。


 ……仕方ない。俺はドアを開けた。


『もう! ショウタ、私がいるのに閉めるなんて、ひどい!』

『あ、ご、ごめん、ちょっと幻影を見ているのかと思って』

『ん? なんのこと?』


 朝からフランス語が飛び交う。言っておくがここはフランスではない。日本だ。

 しまった、まさか朝からリリアさんがうちに来るなんて。あれ? でもどうやってうちが分かったのだろうか。まぁ、昨日俺が三階で降りたから三階のどこかというのは分かるだろうが……。

 ……まぁ、そんなことはいいとして。


「あら? あらあら? もしかしてお友達!? キャー、翔太にお友達が! しかもなんだか日本人ではなさそうねぇ!」


 テンションの高い母さんだった。だから嫌だったのに……俺は頭を抱えた。


『……あ! もしかしてショウタのママ!? はじめまして、あ、日本語で言わなくちゃ』


 わたわたと忙しいリリアさんが、


「わ、わたし、リリア。よろしく」


 と言って、ペコリとお辞儀をした。


「わぁ! リリアさんね、翔太の母です。可愛らしいわねー、こんなに可愛い子が翔太のお友達なんてー! お父さんに報告しなきゃ!」

「い、いや、しなくていいから……」

「あ、日本語だと伝わらないかしら、マイネームイズ、リエコワタヌキ……」


 片言の英語で母さんが自己紹介する。母さんとリリアさんが握手しているではないか。なんか二人とも笑顔だ。俺は泣きたくなった。


「あ、お、俺学校行かなきゃな、行ってきます」

「ふふふ、二人で仲良く行くのよー、いってらっしゃい」

「なっ!? いや、まぁ……」


 母さんに見送られて、俺は家を出る。なぜか隣にはリリアさんがいる。朝からとても疲れたのは俺だけなのだろうか。

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