第42話「三人でカラオケ」
俺たちはカラオケ屋へやって来た。
俺が受付をして、部屋へと入った。まあまあ広い部屋……なのだが、ちょっと困ったことがあった。
『わぁ、ここが日本のカラオケかぁー! なんか綺麗だね!』
『リリアさん、フランスにカラオケはあったのでしょうか?』
『うん、何回か行ったことあるよー! 楽しかったなぁ』
俺の両隣から流暢な英語が聞こえる。そう、俺の右隣にリリアさん、左隣に黒瀬さんが座ったのだ。これだけ広いからもっと離れて座ってもいいんだけどな……と思ったが、何も言えないでいた。
……ん? これが両手に花というやつか……!? よく分からないから、まぁいいか。
『ちょ、ちょっと二人とも、そっちにもデンモクあるだろ、なぜ俺のを覗いてくるんだ……』
『えー、ショウタが選ぶの見てるんだよー、でも日本語だからよく分からないなー』
『綿貫くんがどんな曲選ぶか、興味がありまして。もうちょっと見えるようにしてください』
『え、あ、ち、近――』
リリアさんもぐいぐい来るし、なぜか黒瀬さんも距離が近い……ぴたっとくっつかれているようで、俺はドキドキしていた。男だからな、仕方ないということにしておこう。
……ん? このリア充爆発しろという声がどこかから聞こえてきたな……誰に言っているのだろうか。
『ショウター、早く歌ってよー』
『わ、分かったから、じゃ、じゃあこれを……』
俺はとりあえず人気のロックバンドの曲を入れた。たしかアニメの主題歌にもなっていたから二人も知っているかもしれない。マイクをとって歌い出す……両隣に二人がいるから、緊張して間違えるんじゃないかと思ったが、なんとか間違えずに歌う。ていうかカラオケってこんな感じなんだな。
『すごいすごい! 今の曲メロディは聴いたことある! 日本語の歌詞が分かればもっと楽しいだろうなー!』
『綿貫くん、意外と歌上手なのですね。とてもいいと思います』
『あ、ありがとう……じゃあ次はリリアさん歌う? 俺が入れるよ』
『うん! 私はねー……あれにしようかな!』
リリアさんが入れた曲は、世界的に有名なアニメの主題歌になっている英語の曲だ。ふんふんと鼻息の荒いリリアさんが、ゆっくりと歌い出す……おお、英語の発音が完璧なのは当たり前として、リリアさんも歌が上手い……高音もよく出ているし、伸びもいい。意外な一面を見た気がした。
『リリアさんも上手ですね、私が最初に歌っておけばよかったです。なんだかプレッシャーというか』
『この曲好きなんだー! ショウタも聴いてくれた!?』
『あ、ああ、とてもよかった……よ』
『えへへー、なんか嬉しいなー! あ、次はフウカだね! はいどうぞ!』
『ありがとうございます。私はこの曲にしました』
黒瀬さんが入れたのは、
『すごいすごい! 今のアイドルグループの曲だよね!? なんか聴いたことあった!』
『ありがとうございます。本当に久しぶりのカラオケですが、なんとか歌えるものですね』
『な、なんか、二人とも歌上手いんだな……意外な一面を見たというか』
『えへへー、ショウタも上手だったよ! みんな上手ということで!』
『そうですね、リリアさんも綿貫くんも上手でした。さぁ次は綿貫くんですよ、決めちゃいましょう』
『え、わ、分かった……って、ち、近――』
二人にぐいぐい迫られて、ドキドキする空間だった。
* * *
『あー、楽しかったねー! また来たいなー!』
あれから二時間ほど楽しんだ俺たちだった。け、結局リリアさんも黒瀬さんもぴったりと俺にくっついていた……俺、ひとりぼっちじゃなかったんだな……。
『楽しかったですね、こういう時間も必要なのでしょう』
『あ、ああ、そうだな、たまにはいいなと思ったよ』
『私や綿貫くんは一人でいることが多かったですから、こうして友達と出かけるというのも大事なことなのでしょうね』
たしかに、今までの俺だったら、この夏休みも勉強のみで、遊びに行くなんてことはなかっただろう。でも、今は二人の友達がいるのだ。高校生らしく、楽しく遊んで過ごすというのもいいものだなと思った。
「ショウタ、フウカ、ありがとう!」
日本語でそう言うリリアさんだった。
……その笑顔が、可愛く見えた。
…………。
……はっ!? お、俺は何を考えているのだろう。
「こちらこそ、ありがとうございます」
黒瀬さんも日本語で言った。俺も慌てて「こ、こちらこそ、ありがとう」と言った。
夏休みに友達と遊びに出かけた。これもいい思い出になるのではないかと思った。
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