第41話「三人でお昼を食べる」

『もうすぐお昼になりますね、何か食べますか?』


 アイスクリームを食べた後、しばらく街を散策していた俺たちだった。黒瀬さんがそう言ったので、時計を見るともうすぐ昼の十二時になろうとしていた。


『ああ、そうだな、何がいいんだろうか……』

『なかなか悩ましいですね、リリアさん、食べたいものとかありますか?』

『うーん、前にショウタと出かけた時は、テイショクヤ? に行ったから、また日本らしい食べ物がいいかも!』

『なるほど、定食屋さんに行かれたのですね。それならば……あ、あそこに牛丼屋さんがありますね、牛丼もいいのではないでしょうか』


 黒瀬さんが指さす方向に、牛丼屋があった。まぁ日本らしい食べ物といえばそうなのだが、女子高生が牛丼というのもどうなんだろう? まぁ俺は友達が少ないからよく分からないのだが。


『ギュウドン……? ショウタ、どんなもの?』

『ああ、味のついた牛肉がご飯にのっている食べ物だよ。つゆも美味しいよ』

『へぇー、じゃあギュウドンにしよう!』


 俺たちはそのまま牛丼屋に入った。牛丼屋で女の子二人、男の子一人という組み合わせはさすがにめずらしいかな……ちらちらと見られた気がするが、どうでもいいか。

 テーブルが空いていたので、そこに座った。


『へぇー、あそこカウンターみたいになってるね!』

『一人で来る人は、あそこに座ることが多いですね。店舗によってはああいうカウンターの席しかないところもあります』

『そうなんだねー! 一人で来てみたいかも! あ、でも日本語がもっとできるようになってからじゃないとダメかー』


 メニューを見て、黒瀬さんは並盛牛丼、俺とリリアさんは特盛牛丼を注文した。リリアさんは本当によく食べるな、それもいいことかなと思った。


『リリアさんはよく食べる方なのでしょうか?』

『うん、食べるの好きだよー! フランスで大きなハンバーガーいつも食べてた! あれも美味しかったなぁ』

『そうでしたか、よく食べるのにそのスタイルとは、うらやましいですね。私はすぐお肉がついてしまうから、気をつけておかないと』


 そうは言うものの、黒瀬さんもそんなに太っているという感じではなかった。ただ女性の体重の話題はデリケートなのだ。それくらいはひとりぼっち経験の長い俺でも分かる。変なツッコミはやめておこうと思った。


『まぁ、よく食べるのはいいことだよな。俺たちも高校生だし、食べて当然だと思うよ』

『そうですね、食べないと元気も出ませんからね。あ、来たみたいですね』


 店員さんが牛丼を持って来てくれた。リリアさんは『わぁ! これがギュウドンかー! 覚えたかも!』と言った後、日本語で「ぎゅうどん、ぎゅうどん」と言って楽しそうだった。ま、まぁいいか。


『あ、食べる前には日本語で言わないとね』


 リリアさんがそう言った後、「いただきます」と日本語で言った。


「じゃあ私も……いただきます」

「ああ、いただきます」


 みんなで日本語で言って食べる。久しぶりに食べたが、美味しいもんだな。


『んむんむ、美味しいー! お肉がご飯の上にのっているっていうのもいいね!』


 美味しそうに食べるリリアさんが、可愛く見えた。


 …………。


 ……はっ!? ぼ、ぼーっとしてないで食べないと。


『それはよかったです。リリアさんが楽しそうで、こちらも楽しい気持ちになります』

『そうだな、日本を楽しんでくれているようで、嬉しくなるよ』

『うん! 日本も美味しいものたくさんあって、楽しいなー! 他にも日本らしい食べ物、三人で一緒に食べていきたいな!』

『そうですね、また遊びに行きましょうか。その時に日本食を食べるようにしましょう』


 リリアさんは特盛牛丼をあっという間に完食した。本当によく食べるのだな。女の子でもよく食べる子はなんだか気持ちがいい感じがした。

 昼食をいただいた後、店を出てから俺たちはこの後どうするか話し合うことにした。


『あー、美味しかったねー! ねえねえ、この後はどうしよっか?』

『そうですね、街を見て回るのも楽しいですが……あ、あそこにカラオケ屋さんがありますね、歌を歌うなんてのはいかがでしょうか?』

『お、おお、カラオケか……』

『あれ? 綿貫くんはもしかしてカラオケ苦手でしたか?』

『い、いや、あまり行ったことがなくてな……友達がいなかったから当たり前なんだが』

『それもそうですね、というのは失礼でしたね、すみません。私もあまり経験はないのですが、たまにはいいかなと』

『歌を歌うのかぁー、いいね! じゃあカラオケに行ってみよう!』


 そんな感じで、近くにあったカラオケ屋に三人で行くことになった。なんだか高校生らしい遊び方をしているようで、不思議な感じがしていた俺だった。

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