第30話「リリアさんのお誘い」

 なぜか黒瀬さんと友達になった日の夜、俺はいつものように勉強をしていた。

 予習復習は当たり前として、独学での勉強も怠らないのが俺だ。勉強オタクの俺らしいな。


 スマホやタブレットで調べながら、勉強を進めていたその時、俺はふと気になってしまった。


(……黒瀬さんも、どっちかというと俺に近い人だったのか。まぁなんとなく気持ちは分かるというか)


 学級委員なんてやってるから、人望があって友達も多いんだろうなと思っていたが、そんなことはないらしい。たしかに黒瀬さんは真面目過ぎるのが、他の人からすると近寄りづらいのかもしれないなと思った。


 まぁ、黒瀬さんはどちらかというとおとなしめで、明るい陽キャのノリみたいなものはないし、別に友達になったからといって、変なことはないだろう。変なことってなんだ。

 そう思って勉強を進めていると、スマホが鳴った。通話がかかってきたみたいだ。俺はそれに出る。


『もしもし』

『もしもーし、あ、ショウタ! 今何してるのー?』


 聞こえてきたのは流暢なフランス語。リリアさんだった。何か用事でもあったのだろうか。


『ああ、勉強してたところだけど、何かあった?』

『そっかー、ショウタは偉いねー! あのね、ちょっとお願いというかお誘いがあってね』


 お願いというかお誘い? なんのことだろうか。


『ん? お誘い……って?』

『えへへ、明後日は日曜日でしょ? 実はうちのパパとママが、ちょっとお出かけしないかと言っていてね! それで、ショウタとショウタのパパとママも一緒に行けないかなと思ってね!』


 ああ、なるほど、家族でお出かけということか。


 …………。


 ……ん!? か、家族でお出かけ……!? うちの父さんと母さんも一緒に……!?


『え!? あ、そ、そうなのか……』

『うん、せっかくだしいいんじゃないかなーって! あ、うちにワンボックスカーがあるから、みんな乗れるよ!』

『あ、そ、そっか……って、いいのかな、なんか家族でのお出かけにお邪魔するみたいで……』

『いいのいいのー、うちのパパとママも、ショウタのパパとママに会いたいって言ってるからねー! 家族での交流? みたいなものかな!』


 ふんふーんと楽しそうなリリアさんだった。そ、そうか、家族での交流……か。よく分からないが、たまにはそういうのもいい……のか?


『そ、そっか……分かった、うちの両親に訊いてみるよ』

『やった! 楽しみにしてるねー! あ、ショウタの勉強の邪魔したらいけないな、それじゃあまたねー!』


 そこで通話は切れてしまった。な、なんか台風みたいだな……と思ってしまった俺だった。

 とりあえずそのことを伝えにリビングに行くと、両親がいた。


「ん? 翔太、どうしたんだ? 勉強中じゃなかったのか?」

「あ、いや、それが……今リリアさんから電話があって、明後日の日曜日に家族みんなで出かけないかって……俺も父さんも母さんも一緒に」

「なんと! そうなのか、リリアさんのご家族と会えるのか、それはご挨拶をしておかないといけないなぁ」

「あらまぁ、そうなのね、リリアちゃんのお父さんとお母さんはどんな感じの人かしら、ふふふ、楽しみねー」


 なんだか乗り気の両親だった。も、もうちょっと遠慮するとか、そういうことはないのかと思ったが、口に出すのはやめておいた。


「リリアさんのご両親は、フランスの人なのか?」

「あ、お父さんはフランス人で、お母さんは日本人だよ。お、俺はこの前ご挨拶させてもらったけど……」

「あらまぁ、お母さんは日本人かー、ふふふ、ちょっとお話してみたいわねー」

「ま、まぁ……ていうか日曜日に予定とかなかった……?」

「大丈夫だ、お父さんもお母さんも予定はなかったからな。どこに行くんだ?」

「あ、それは聞いてなかった……なんか、リリアさん家にワンボックスカーがあるから、それで出かけようとしか聞いてないかな」

「そうか、じゃあリリアさんのお父さんと、交代で運転するというのもありだな。そうしよう」

「ふふふ、家族ぐるみでのお付き合いねー、いいんじゃないかしら。二人が結婚する前からお知り合いになるのも大事よね」

「なっ!? い、いや、結婚って……じゃ、じゃあリリアさんに伝えておくよ」


 俺が通話でリリアさんに日曜日は行けることを話すと、『やったー! 楽しみにしてるね!』と言っていた。

 な、なんだかあっという間に、日曜日に家族みんなで出かけることとなった。俺はその後勉強に手がつかず、今日は早めに寝てしまうことにしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る