第29話「学級委員の黒瀬さん」
『なるほど、こうやって綿貫くんのお気に入りスポットにいつも二人で来ている……と』
俺の前から流暢な英語が聞こえてくる。言っておくがここはアメリカではない。日本だ。
学級委員の黒瀬さんは、俺たちのことを訊いてきた。そんなに面白いもんでもないんだけどなと、俺は思っていた。
『うん! ショウタはすごいよ! ほんとに人がいないところをよく知ってる!』
俺の隣からも流暢な英語が聞こえてくる。リリアさんが楽しそうに話すのだ。ま、まぁ、楽しいならそれでいいのかな……。
『……なんかいいですね、こういうの。クラスでみんなの声を聞いているよりは、静かで落ち着く感じが』
『お、おう……俺が言うのもなんだが、黒瀬さんも友達いなかったんだな……』
『まぁ、私は堅物だと思われているみたいですので。みんなでわいわいというノリはあまりついていくことができないというか』
そう言ってお弁当を食べる黒瀬さん。まぁ、気持ちは分かるなと思った。俺もひとりぼっちだった頃はそういう友達同士のノリがどうでもいいと思っていたからな。今もそうか。
『そっかー、フウカ、寂しいね。でも今日から大丈夫だよ! 私とショウタがお友達だからね!』
『え!? い、いや、その……』
『友達……ですか。まぁ悪くないですね。じゃあ、今後よろしくお願いします』
そう言ってペコリとお辞儀をする黒瀬さんだった。い、いや、俺は友達とか一言も言ってないんだけどな……と言っても、聞いてくれそうになかった。
『うん、よろしく! あ、フウカは勉強できる人って言ってたね?』
『まぁ、綿貫くんには勝ったことはありませんが、いつもテストでは学年で二位から五位あたりをうろうろしています』
『ええー! すごい! あれ? ということは一位はショウタなの!? それもすごい!』
笑顔で言うリリアさんだった。みんな忘れたと思うが、勉強はクラスで一番、学年で一番。それが俺の定位置だ。誰に言っているのだろうか。
『ああ、まぁ……一位は俺の定位置だからな』
『……そう言い切れるのが綿貫くんらしいですね。あ、別に悔しいとか思っていませんので、勘違いしないでください』
『お、おう、ていうか黒瀬さんも勉強できる人だったんだな……』
『まぁ、私は勉強くらいしか取り柄がありませんので。綿貫くんには負けますが』
真面目な顔で言う黒瀬さんだった。まぁ俺も勉強オタクだから、その気持ちも分かるなと思った。
『……でも、綿貫くん、変わりましたね』
お弁当を食べながら、ふとそんなことを言う黒瀬さん。お、俺が変わった……? なんのことだろうかと思って、俺はふとパンを食べる手を止めた。
『……え? 俺が……?』
『リリアさんと楽しそうに話す姿を見てきました。以前はもっとツンツンしていて、誰の声も聞かなかったのに、リリアさんだけは受け入れていて、表情も柔らかくなったというか』
『そ、そうかな……そうでもないと思うが……』
『リリアさんは外国出身だから、受け入れたのかもしれませんね。あとは元々優しい心を持っていたとか』
『うん! ショウタ、すごく優しいよ! 私にポキモンのぬいぐるみ買ってくれたんだー』
嬉しそうなリリアさんだった。あ、そ、それは内緒にしてほしかった……!
『……どうやらリリアさんも、綿貫くんの優しさに触れて心を開いているみたいですね。とてもいいことだと思います』
『い、いや、まぁ……俺は……』
……でも、友達も悪くないなと思っている俺がいる。これは間違いなく、リリアさんのおかげだ。リリアさんと出会って、交流することで、友達のよさがだんだん分かってきた気がする。友達が一人でもいい。誰かがいることで、自分も楽しい気持ちになるのは間違いなかった。
『……そうだな、リリアさんと友達になって、よかったと思う』
俺はつい本音がポロっと出た。あんなに友達なんていらないと思っていた俺が、ここまで変わることができたのだ。それもまたいいのかなと思った。
『うん! えへへー、ショウタと友達だもんね! あ、フウカも友達!』
『リリアさんの明るさも、綿貫くんが心を開いた要因の一つですね。とてもいいことだと思います。でも自分が友達と言われると、なんだか不思議な感じがしますね』
『そ、そうだな、俺も同じような気持ちだ……』
明るい笑顔でサンドイッチを食べるリリアさんと、真面目な顔でお弁当を食べる黒瀬さん。なんか対照的な二人のようで、面白いなと思った。
全く予想していないことが起きた。そんな感じで、俺に二人目の友達ができたのだった。
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