第28話「ひとりぼっちはどこへやら」

 午前中の授業が終わり、昼休みとなった。

 クラスでは仲のいい者同士、机をくっつけたり、学食に行こうと話したりしている。さて、俺もひとりぼっちスポットに行くか……と思っていたら、


『ショウタ、いつものところに行くの?』


 と、流暢なフランス語が聞こえた。もちろんリリアさんだ。


『ああ、今日はしばらく行ってなかったところに行こうかと思って』

『そっかー、じゃあ私も行く!』


 そう言って俺の左手をきゅっと握ってきた。


『だ、だからこれはやめてくれないか……』

『えー、ショウタのケチー。じゃあ行こっか!』

「――相変わらず仲がよさそうな二人ですね」


 その時、俺たちに声をかける人がいた。学級委員だ。な、仲がよさそう? まぁ友達だからな……というのは恥ずかしくて言えなかった。

 ……ん? 学級委員はなぜ話しかけてきたのだろうか。


「あ、いや、まぁ……普通だとは思うんだが……」

「そうでもないと思いますよ。昼休みにいつも二人がどこかに消えるのは知っています。今日も行こうとしていたのですか?」

「あ、ああ、そんな感じで……」

「いいですね、私も同席してよろしいでしょうか」


 ど、同席……って、まさか学級委員もついて来るということなのだろうか。俺と学級委員が話しているのを、リリアさんが不思議そうな顔で見てくる。さすがに日本語は分からないか。


「え、あ、いや、俺はひとりぼっちがよくてな……」

「リリアさんは受け入れているんだから、私一人が増えたところで変わりません。あ、別に好意を持っているとかではないので、勘違いしないでください」

「あ、ま、まぁ……」

「それでは行きましょうか、連れて行ってください」


 いつもなら無視する俺だが、学級委員がそれを許さないような雰囲気を出していた。う、うーん、俺はひとりぼっちがいいんだけどな……。



 * * *



『へぇー、ここも誰もいないんだねー』


 リリアさんが辺りをキョロキョロと見回しながら言った。ここは一階の応接室の先にある空き部屋。俺がひとりぼっちだった時に見つけたお気に入りスポットの一つだ。一応担任の先生にこの部屋を使っていいか訊いたことがある。すぐにOKしてくれたので、俺はありがたく使わせてもらっていたのだ。

 ……だが、今日は一人ではなかった。


「こんなところに空き部屋があるなんて、知りませんでした。さすがは綿貫くんといったところでしょうか」


 リリアさんの他に、なぜか学級委員までついて来ている。俺のひとりぼっち生活はどこへ消えてしまったのだろうか。今更か。


「あ、ああ、ここは俺のお気に入りスポットの一つ……って、日本語で話すとリリアさんが分からないな、でもフランス語で話すと学級委員が分からないし……」

「そうですね、あ、ここは英語で話すのはどうでしょうか。英語なら私も分かりますので」


 そう言った学級委員が、


『リリアさん、私は黒瀬くろせ風花ふうかといいます。風花と呼んでください』


 と、流暢な英語で言った。おお、学級委員は英語ができる人……って、初めて名前を知った。すまんが俺はクラスメイトの名前なんて覚えていなくてな。


『あ、フウカ? フウカ! よろしく!』


 リリアさんが英語で言って、二人は握手していた。なぜ俺はその光景を見ているのか分からなかった。


『あ、学級委員は英語ができる人だったんだな……』

『もちろん。あなたには負けますが、私もそれなりに勉強ができますので……って、あなたまさか私の名前を知らなかったのですか? 一年生の時から一緒なのに』

『あ、す、すまん、黒瀬……さん以外もほぼ知らなくてな……』

『まぁ、それが綿貫くんらしいですね。別に何とも思っていません』


 真面目な顔でそう言う学級委員……黒瀬さんだった。


『……ていうか、なんで黒瀬さんはついて来たんだ?』

『まぁ、一言で言うと興味……でしょうか。綿貫くんとリリアさんに興味がありまして』

『そ、そっか、そんなに面白いもんでもないと思うが……あ、リリアさん、話してるの分かる?』

『うん! 英語だから分かるよー! フウカももしかして友達いないの?』


 ストレートに訊いてしまうリリアさんだった。ま、まぁ、悪気はないと思う……。


『……そうですね、私は面倒ごとを押し付けられる便利屋ですから。友達と呼べる人はそんなにいないかもしれませんね』

『そっかー、フウカも寂しかったんだね。大丈夫だよ! 私とショウタがいるよ!』


 笑顔で言うリリアさんだった……って、ちょっと待て。なんで俺も巻き込まれているのか……考えても無駄のような気がした。


『……リリアさんは明るいですね。綿貫くんの気持ちも分かります』

『え、お、俺の気持ち……?』

『……まぁいいです。それよりも、ご飯食べませんか? お腹が空きました』

『そうだね! 食べよ食べよー!』


 二人が仲良く? 持ってきたお弁当を開けていた。お、俺はどうしてこうなった……と、心の中で思っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る