第18話「リリアさんとデート」

 ゴールデンウィーク初日。今日という日がやって来た。


 何かというと、今日はリリアさんとお出かけをする日だ。休日に友達とどこかに出かけるなんて経験がなくて、俺は変な汗を流していた。変な汗流れ過ぎだな。


 俺は先日決めたように、白のシャツに黒のジャケット、黒のパンツに身を包んだ。少しは大人っぽく見えるかな……そんなことを思っていた。


 ピンポーン。


 顔を洗ってさっぱりしていると、インターホンが鳴った。あれ? こんなに早く誰だ? リリアさんと約束している時間にはまだ早いが……?

 そう思いながら出てみると――


『――あ、ショウタ、おはよう!』


 聞こえてきたのは流暢なフランス語。玄関先にいたのはリリアさんだった……が、その姿を見た俺はドキドキしてしまった。リリアさんは襟付きのチェック柄のワンピースに身を包んでいる。とても似合ってて可愛かった。


『あ、お、おはよう……』

『あれ? ショウタ、なんか赤くなってない? あ、私の姿見てドキドキしたんでしょ?』

『え!? い、いや、まぁ……』

『えへへー、ちょっと可愛い服を選んでみたんだ! メイクもしてるんだよ!』


 そう言ってぐいっと身を寄せてくるリリアさんだった……って、ち、近――


「――あら? あらまぁ! リリアさんおはよう、可愛いわねー」


 その時、後ろから声がした。見ると母さんがニコニコ笑顔でリリアさんを見ていた。


『あ! ショウタのママ! おはようございます! って、日本語で言わないと』


 わたわたと忙しいリリアさんが、


「お、おはようござます」


 と、日本語で言った。おお、惜しい、もう少しだ。


「あらー、日本語も少しずつ言えるようになってきたのかしら、可愛いわねー、今日は二人でお出かけなんでしょ?」

「あ、ま、まぁ、そんな感じで……」

「ふふふ、楽しんできてね、翔太、ちゃんとエスコートするのよ。男としてしっかりね」

「あ、そ、そうか、まぁ……」


 リリアさんが俺と母さんを交互に見る。日本語が分からなかったと思うのだが、翻訳するのが恥ずかしい……。


『り、リリアさん、だいぶ早いけど、行ってみるか……?』

『うん! 行こう! 私、楽しみにしてたんだー!』


 母さんに「いってらっしゃーい」と見送られて、俺たちはとりあえず駅まで歩いて行くことにした。今日もいい天気だ。雨にならなくてよかったなと思った。

 俺はちらりとリリアさんを見る……学校の時の制服姿と違って、新鮮に見えた。そして、か、可愛い……。

 ……ん? 俺は何を考えているのだろうか。


『えへへ、ショウタ、今日はありがとうね、一緒に出かけることできて、私嬉しい!』

『そ、そっか、俺の方こそ……あ、ありがとう』

『ふふふ、ショウタ、また赤くなってる。ショウタも可愛いところあるね』


 リリアさんはそう言って、俺の左手をきゅっと握ってきた……って、えええ!? ま、まぁ、よく手は握られる方だと思うが、今日のこの姿だといつもより――


『……あ、こうしていると、なんだかデートみたいだね!』

『あ、そ、そうだな、俺、女の子と、で、デートなんてしたことないから、どうしたらいいのかよく分からなくて……』

『そっか、ショウタでも分からないことがあるんだね! でも二人で楽しめばいいんじゃないかな!』

『あ、ま、まぁ、そうかもしれないな……』


 ニコッと笑顔を見せるリリアさんに、俺はドキドキしていた。うう、大丈夫か俺、友達と出かけるというのがこんなにハードルの高いものだったなんて知らなかった……何事も経験というが、心臓の方が持つのか心配になってきた。


 駅まで歩いてきた。電車はすぐに来るみたいだ。な、なんかここまで来る間にも通りすがりの人にちらちら見られていたような……まぁ、リリアさんがハーフということで目立つのは間違いない。人の視線なんてどうでもいいか。


 ……ん? 以前はリリアさんのことがどうでもいいと思っていたのに、今はリリアさん以外の人がどうでもいいと思うようになった。俺も変わったものだな。それがいいことなのかどうなのかは分からないが。


 電車に乗り、しばらく揺られる。今日はちょっと離れた隣町に行こうと話していた。リリアさんもこっちに来てからあまり出かけたことがないそうだ。日本の文化に触れるのもいい刺激になるのではないかと思った。


『あ、学校が見えるね。今日は通り過ぎるの?』

『ああ、もうちょっと先まで乗るよ。定期から外れるから、少し電車代はかかってしまうけど』

『そっか、大丈夫だよ! パパにショウタと出かけるって話したらね、楽しんできなさいってお小遣いくれたんだ!』

『そ、そっか、お父さん公認なのか……よかった』


 実は、『リリアとデートなんて許さん!』と言われるんじゃないかと思っていた俺だった。ま、まぁ、ちょっとほっとしたというか。


 俺と手をつないで、楽しそうなリリアさんを見ると、俺も楽しい気持ちになっていた。

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