第19話「リリアさんは食べる人」

 隣町の駅に着き、俺とリリアさんは、電車を降りることにした。

 定期券の先の分の運賃を支払って、外に出る。いい天気で暖かくて気持ちがよかった。


『なんだか気持ちいいねー! ポカポカ陽気って感じ!』

『ああ、雨にならなくてよかったな』

『ふふふ、私、晴れますようにって祈ってたんだー。そしたらママが、テルテルボウズ? っていうのがあるって教えてくれた!』

『ああ、雨が降らないようにお祈りするものだな。リリアさんの祈りが届いたのかもね』


 二人で街を歩いて行く。俺もあまりこっちの方に来ることはないので、新鮮だった。


『ふふふ、ショウタの格好、カッコいいね』


 ふとそんなことを言うリリアさんだった。あ、ま、まぁ、いつもは制服姿だからな、私服姿というのが新鮮に映ったのかもしれないなと思った。


『あ、ありがとう……り、リリアさんも……その……か、可愛いよ』

『ほんと!? ありがとう! えへへ、ショウタに言われると嬉しいな!』


 そう言って右腕に絡みつくリリアさんだった。い、いつも以上に距離が近い……! 俺はドキドキがおさまらなかった。

 ……ん? な、何を考えているのだろうか。リリアさんは友達であって、特別な人というわけではないのに……。


(……ま、まぁ、ワンピース姿がほんとに可愛いんだよな……これでドキドキしない男なんていないと思う……)

『……あ、ねぇショウタ、あのお魚の形したものは何?』


 リリアさんがそう言って指さした方向にあったのは、たい焼き屋だった。


『ああ、あれはたい焼きっていって、中にあんこが入っている食べ物だよ。さすがに食べたことないかな?』

『へぇー、うん、食べたことない!』

『そっか、じゃあ買ってみようか』


 俺たちはたい焼きを買ってみることにした。リリアさんが興味津々のようだ。二つ買って、一つをリリアさんに渡した。近くに公園があったので、そこのベンチに座って食べることにした。


『わぁ、ほんとにお魚さんだ! いただきます!』


 リリアさんがたい焼きを一口いただく。その姿を見た俺は――


『んむんむ、美味しい! これがあんこっていうの? 美味しいね!』


 ……かぷっとたい焼きにかぶりつくリリアさんが、可愛く見えた。


 …………。


 ……はっ!? お、俺もぼーっとしてないで食べないと。うん、あんこがみっちりと詰まっていて美味しい。


『なんか久しぶりに食べたけど、やっぱり美味しいなぁ』

『そっか、ショウタは久しぶりだったんだねー。なんかいいねこういうの、楽しい!』


 たい焼きを食べながら「おいしい、おいしい」と日本語を言うリリアさんだった。おいしいも覚えたみたいだな。


『リリアさんって、けっこう食べる人なのかな? この前もお昼のパンをおやつにしようとか言ってたし』

『うん、食べるの好きだよー! フランスで一キロのお肉を食べたことある! あれも美味しかったなぁ』


 そ、そうか、女の子にしてはよく食べる方なのかもしれないな。それでもリリアさんは太っているという感じではなかった。背も女の子にしては高くて、スラっとしていてスタイルもいいというか……。

 ……ん? お、俺はどこを見ているのだろうか。


『そ、そうなんだね、あ、もうちょっと見て回ろうか』

『うん! 楽しそうなのがいっぱいあるー』


 それから俺たちはまた街を散策した。リリアさんは『あ、コンビニがここにもある!』『ショウタ、このお店は何?』と、なんだか楽しそうだった。


 ……まぁ、何度も言うが俺はこうして友達とどこかに出かけるなんて経験がないから、ちゃんと案内できているのか分からないけど、リリアさんが楽しそうなのを見ると、まぁいいのかなと思っていた。


 不思議なもんだな、ついこの間まで友達なんていらない、勉強が友達で十分だと思っていた俺が、こうしてリリアさんと出かけている。やはり外国の人であるリリアさんだからこそ、友達になれたのだろうなと、改めて思った。


 しばらく街を歩いて、少し早いけどお昼を食べようかという話になった。


『リリアさん、何か食べたいものある?』

『うーん、できれば日本らしい食べ物がいいなぁ。ハンバーガーとかはフランスにもあったので!』

『そっか、じゃあ……あ、あそこに定食屋さんがあるね、行ってみようか』

『テイショクヤ……? うん、行ってみたい!』


 俺たちは定食屋に行ってみることにした。日本食といってここに来るのが正解かどうかは分からないが、ご飯やおかずといった日本らしい食べ物を食べることができるかなと思った。

 リリアさんが色々なものに興味を持って楽しそうだ。俺はそれだけで嬉しかった。

 

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