第17話「いっしょにでかけよう」

 五月、早い人はもうゴールデンウィークの休みに入っているということで、世間は休みの日にあれをしようこれをしようと楽しみな人の声でいっぱいだ。


 俺ももちろん休みを満喫……と思わせて、いつも通り勉強をするつもりだ。休みの日こそしっかりと勉強をしておかねばならない。独学で学んでいるフランス語とスペイン語も進めたいところだ。勉強オタクの俺らしいな。


 特にフランス語はリリアさんとも話しているため、もっと話せるようになりたいという気持ちが強かった。今でも日常会話程度ならできるが、まだまだ知らないことも多い。これからも学ぶ姿勢は変えずにいきたい。


(……そうだ、リリアさんにフランス語を教えてもらうというのもいいかもしれないな)


 そう考えて、俺はふっと笑ってしまった。あれだけ友達なんていらないと思っていた俺が、リリアさんのことをすぐ思い浮かべてしまう。これが友達というやつか……まぁ、嫌な気分ではないからいいかなと思った。


 今日も一日が終わろうとしている。お風呂から上がり、寝るまで勉強をしようかと思っていたその時、俺のスマホが鳴った。どうやら通話がかかってきたようだ。俺は通話に出る。


『もしもし』

『もしもーし、あ、ショウタ、寝てた?』

『いや、お風呂入って今から勉強しようかと思っていたところだよ』


 通話をかけてきたのはリリアさんだ。まぁ俺はひとりぼっちだったから、こうして通話する友達なんていなかったんだけどな。


『そっかー、さすがショウタだねぇ!』

『あ、ああ、リリアさん、どうかした?』

『あ、そうそう! ショウタ、もうすぐ学校休みなんだよね?』

『ん? ああ、ゴールデンウィークっていう休みがあるよ。それが何か?』

『そっかー、日本も休みがあるんだねぇ。でね、その休みの日に、ちょっと考えていることがあって!』


 そう言ってふんふーんと楽しそうなリリアさんだった。ちょっと考えていること? なんだろうか?


『ん? 考えていること……?』

『うん! 何なのか当ててみて!』

『え、い、いや、さっぱり分からないんだが……』

『えー、ショウタ甘いよー! 休みといえば、友達同士で遊びに行くってことだよー!』


 ああ、なるほど、友達同士で遊びに行くと。


 …………。


 ……ん? 誰と誰が遊びに行くって?


『ん? 友達同士で遊びに行く……? 誰と誰が?』

『そんなの決まってるよー! 私とショウタだよ!』


 なるほど、私とショウタだよ。


 …………。


 ……って、えええええ!?


『ええ!? り、リリアさんと、俺が……!?』

『うん、一緒に遊びに行きたいなーと思ってるんだけど、どうかな?』

『あ、い、いや、俺、友達と遊びに行ったことなくて、なにがなんだか……』

『そうだよね! って言うのも失礼か。ねーねー、行こうよー』

『え、あ、まぁ、リリアさんが行きたいっていうなら……』

『やった! じゃあ決まりね! 休みの最初の日に行きたいなって思ってるよ。楽しみにしてるねー!』

『あ、ああ、分かった……』

『ふふふ、可愛い格好して行こっと! ショウタも楽しみにしててねー!』


 そう言って通話が切れてしまった。


 ……その後、スマホをぼーっと見つめてしまった俺がいた。


(……え、え!? い、一緒に遊びに出かける……!? リリアさんと、俺が……? そんな、友達と遊びに行くなんて経験のない俺が、リリアさんと一緒に……?)


 冷静になればなるほど、胸がドキドキしてきた。変な緊張で脇のところから汗が流れてきたようだ。


(や、ヤバい、出かけるって、俺はそんなにいい服を持っていなかったような気がする……! さ、さすがにジャージだとダメだよな……)


 俺は慌ててタンスやクローゼットの中を漁る。ま、まぁ、暖かくなってきたからこの白のロゴ入りシャツと、黒のジャケットと、黒のパンツでいいかな……いや、もっとおしゃれした方がいいのかな、そんなことを考えていた。


(よ、よく分からないが、これでいいのかな……って、ちょっと待て、リリアさんと出かけるってことは、そ、それって……)


 そこまで考えて、俺はぷるぷると手が震えるような感じがした。リリアさんは女の子だ。女の子と出かける……ということは――


(……ま、まさかこれって、で、デート……?)


 ま、まさかな、落ち着け俺。これはまぼろしだ。夢だ。きっとリリアさんがからかっているんだ。うん、そうに違いない。

 そう思ったその時、ピコンと俺のスマホが鳴った。RINEが送られてきたみたいだ。


『しょうた、たのしみしてる』


 送ってきたのはリリアさんだ。たのしみしてる……やはり出かけることか。ゆ、夢ではないってことだな……。

 と、とりあえず俺も返事を送ることにした。


『わかった、たのしみにしてる』


 …………。


 その日は俺にしてはめずらしく、なかなか寝付けなかった。

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