第16話「部活動ってどんなとこ?」

「リリアさん、また明日ねー」

「うん、またあした」


 今日も放課後になり、リリアさんもクラスメイトと笑顔で挨拶していた。『またあした』は完全に覚えたみたいで、よかったなと思った。

 ん? 俺は挨拶しないのかって? もちろん俺には誰も話しかけない。ひとりぼっちというのはそういうものだ。


 ……まぁ、もう本当の『ひとりぼっち』ではないんだけど。


『ねぇショウタ、もう帰る?』


 俺の隣から流暢なフランス語が聞こえる。もちろんリリアさんだ。日本語を少しずつ覚えてきているとはいえ、さすがに日常会話はまだフランス語や英語を使って話していた。まぁそんなものだろう。


『ああ、帰ろうかなと』

『そっか、あ、今日ね、さっきの子に聞いたんだけど、ぶ、部活動? っていうのがあるの?』

『ああ、部活動か、うん、入っている子もいるかな』

『そっかー、ショウタは入らないの?』

『い、いや、俺は一人がよかったからな……そういう人の集まりっていうのは苦手というか』


 部活動か、俺には全く縁のない世界だった。あんなものキラキラした陽キャがやるものだろう。ちょっと偏見が過ぎるかもしれないが。


『ショウタは本当に一人が好きなんだねー。あ、ちょっと部活動っていうのを見に行ってもいいかな?』

『え? あ、それはいいけど、一人で行けるか?』

『えー、そこはショウタも一緒に行こうよー、見学だけなんだからさー』


 なんと、リリアさんは一緒に部活動を見に行こうと言っている。う、うーん、正直あまり行きたくはないが、こう至近距離で見つめられると嫌と言いにくいというか……ていうかリリアさんそれずるくないか。


『う、うーん、まぁちょっとだけなら……』

『やった! さっきの子はバレー部に入っているって言ってた!』

『バレー部か、じゃあ体育館かな』


 結局リリアさんと部活の見学に行くことになってしまった。うちの高校の体育館は渡り廊下を渡った先にあって、手前に武道場と弓道場、その隣に体育館がある。俺たちは体育館を覗いてみる。


『わぁ! なんだか声が聞こえてくるよ! エイエイオーみたいな?』

『り、リリアさんそんな言葉知ってたのか。まぁ、練習のかけ声みたいなものかな』


 体育館ではバスケ部とバレー部が練習を行っていた。俺も素人なのでよく分からないが、「ナイスー!」「もう一本!」などと声が聞こえる。ああ、こういうノリ苦手なんだよな……。


「あ、リリアさんだ! 見学に来てくれたの!?」


 そう言って俺らの元にやって来たのはクラスメイトだ。なんとか片言の英語で話しかけていた。俺のことはちらっと見ただけで『なんであんたがいるの』みたいな顔をされた。ひとりぼっちもここまでくると立派だな。


 フランス人のハーフはさすがに目立つ。色々な子に声をかけられるリリアさんだった。リリアさんも英語で話している。まぁ、楽しそうならそれでいいか。


『ショウタ、あれすごい! 大きくジャンプして、スパイク打ってる!』

『ほんとだな、近くで見ると迫力があるというか……そういえばリリアさん、フランスではどんなスポーツが人気なんだ?』

『やっぱりサッカーは盛り上がるかなぁ。よくテレビ放送もあってたよ! あとはテニスとかラグビーとか。あ、自転車競技も人気だね! ツール・ド・フランスがあってるから!』


 なるほど、そういえばサッカーではフランスは強豪国だ。人気もあるのだろう。テニスも全仏オープンがあるし、リリアさんが言った通りツール・ド・フランスで自転車のロードレースも人気があるというのもうなずけた。


『そっか、リリアさんは何かスポーツやってたのか?』

『バスケとバレーはよくやって遊んでたよ! こう見えて私もスパイク打てるんだからねー!』


 リリアさんがそう言ってスパイクを打つように手を振った。その仕草が可愛らしくて俺は笑ってしまった。


 ……ん? なんか俺、友達との会話を楽しむ普通の男子高校生って感じがするな。まぁ外国の人であるリリアさんだからこそ友達になれたのだろう。日本人ではこうはいかない。俺もとことん人付き合いが苦手のようだな。


『ショウタはスポーツやってこなかったの?』

『うーん、一人でやれるスポーツって少ないからなぁ。一人でサッカーボールでリフティングはやってたけど』

『そっかー、寂しい人生を送って来たんだねぇ。でもこれからは大丈夫! 友達の私がいるからね!』


 そう言って一人でトスを上げて、またスパイクを打つリリアさんだった。ま、まぁ、楽しいのならよかった。


 その日はバレー部の練習を少し見学してから帰った。あまり乗り気ではなかったが、こういう日があってもいいだろう。俺も寛大になったものだ。

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