第27話「リリアさんの活躍」

 学級委員の後を追うようにして、俺は体育館へとやって来た。

 組み合わせを見ると、バレーはもうすぐうちのクラスが試合をやるみたいだ。体育館の端の方で準備運動をするリリアさんが見えた……と思ったら、俺とバッチリと目が合った。すると「あ!」と声を上げて、


『ショウタ! 見に来てくれたんだねー!』


 と、嬉しそうに走って来るリリアさんがいた。


 …………。


 ……ちょっとだけ嬉しかったのは、ここだけの話だ。


『あ、ああ、リリアさんが頑張るって言ってたから、見に来たよ』

『ふっふっふー、私頑張るからねー! そこで見ててね!』


 ふんふんと鼻息を荒くしてぴょんぴょん飛ぶリリアさんだった。ま、まぁ、楽しそうでなにより。


「……やっぱりリリアさんは、あなたのことが……」


 俺の隣でぽつりとそう言ったのは、学級委員だった。ん? 今のは俺に言ったのかな、よく分からないが、リリアさんがなんだって?


「ん? な、なにか言ったか……?」

「……いえ、別に。私はフランス語は分からないので、二人が何を話しているか分かりませんが、仲がよさそうなのは分かります」


 そんなことを言う学級委員だった。ま、まぁ、一応友達だからな……と言いかけて、俺は恥ずかしくなって口に出すのはやめておいた。


 バレーの試合が始まった。相手チームのサーブからだ。ぽーんと大きく放たれたボールは、クラスメイトの女子がレシーブ、その時、


「レフト、カモン!!」


 と、大きな声が聞こえた。リリアさんだ。真ん中の子がトスを上げると、左から大きく動いたリリアさんがそのままジャンプ。バシッという音とともにボールは素早く相手コートに叩きつけられた。


「お、おお、リリアさんすごい……!」


 俺は思わず声が出てしまった。先制点をとったうちのクラスの女子が盛り上がっている。なんだか楽しそうだ。

 それから試合は一進一退の攻防が続いたが、中盤からまたリリアさんを中心にうちのクラスが得点を重ねていった。


「リリアさん、ナイスー!」

「リリアさんすごーい! うちの部にほしいー!」


 女子たちの楽しそうな声が聞こえてきた。たしかにリリアさんはすごかった。背も女子の中では高い方だし、自信もあったみたいだから、この活躍も当然なのかなと思った。

 そのまま試合が終わる。順調に得点を重ねたうちのクラスの勝利となった。


「やったー! みんな頑張ったね!」

「うんうん、リリアさんがほんとにすごかった! あ、英語で言わないと伝わらないか」


 そう言って英語でなんとか話をしている女子たちだった。まぁ、リリアさんも楽しそうなのでよかったな……と思ったら、


『――ショウタ! 見てくれた!? 私頑張ったでしょー!』


 と、俺の方にやって来たリリアさんがいた。


『あ、ああ、すごかったよ、よく頑張ったね』

『えへへー、私もやればできるんだよー! ショウタは試合終わったの?』

『ああ、残念ながら負けちゃったよ。まぁ心を無にして俺なりに頑張ったのでよかったかなと』

『あはは、ショウタはやっぱり面白いこと言うねー! 私たちは次も試合があるみたい。そのまま見ててね!』


 ぶんぶんと手を振るリリアさんが、可愛く見えた。


 …………。


 ……はっ!? お、俺は何を考えているのだろうか。


「……やっぱり、綿貫くんとリリアさんは楽しそうですね」


 俺の隣でそんなことを言う人がいた。もちろん学級委員だ。ちょっと笑っているのか……? 顔は真面目なのだが、口元が少し上がっているような気がした。


「い、いや、まぁ……リリアさんに押されっぱなしのような気もするけど……」

「いいじゃないですか、彼女が心を開いてくれるのなら。あ、別に何とも思ってませんので、勘違いしないでください」

「お、おう……ていうか、俺らってこんなに話すの初めてだよな……?」

「そうですね、今まで綿貫くんは話しかけても無反応でしたから。反応してくれるだけありがたいというか」

「そ、そっか……まぁ、俺はひとりぼっちがよかったんでな……」

「まぁ別に、何とも思っていません。次もリリアさんが活躍するといいですね」


 真面目な顔でそう言う学級委員だった。ま、まぁ、こういうこともあるのかな……リリアさん以外の人と接したことがないので、よく分からなかった。


 その後、バレーのうちのクラスはどんどん勝ち進み、なんと優勝してしまった。みんな嬉しそうだ。リリアさんも大活躍だった。これはしばらくリリアさんとはバレーの話になりそうだな……。

 ……あれ? 学級委員はバスケの方に出たのだろうか。まぁいいやと思っていた俺だった。

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