第51話「好きだと伝える」
「……それはいいとして、時間があまりありませんね。綿貫くんとリリアさんは同じマンションでしたね。早く行って、気持ちを伝えてください」
「分かった、ありがとう、そうするよ」
「二人の仲がうまくいくことを願っています。それじゃあまた」
黒瀬さんとの通話を終えた俺は、無意識のうちに動き出していた。
もちろん、リリアさんのところへ行くためだ。
何も言っていないのに突然来たら、びっくりするかな。
まぁ同じマンションだし、逆のことはよくあったし、たまには俺からでもいいんじゃないかな。
頭の中ではそんなことを考えていた。
階段をダッシュで駆け上がり、五〇一の部屋の前まで来た俺は、呼吸を整えて、インターホンを押す。するとすぐに、
「はい」
と、聞こえてきた。お母さんかな、俺は、
「あ、わ、綿貫です。り、リリアさんはいますか?」
と、日本語で言った。
「ああ、翔太くん! ちょっと待ってね、リリアに出るように言うからね」
お母さんの声を聞いて、俺は再度呼吸を整え、自分に落ち着けと何度も言い聞かせた。
しばらくして、玄関のドアが開いた。
『あ、ショウタ! どうしたの?』
そこにいたのは、いつものリリアさんだった。
明るい栗色のショートカットで、目が二重で大きく、少し彫りが深く、鼻も高く、どこかハーフを思わせるような顔立ちの女の子。
リリアさんの笑顔を見て、俺は――
『り、リリアさん、き、聞いてほしいことが、あるんだ』
恥ずかしくて目をそらしそうになったが、それではいけないと思い、リリアさんの大きな目をじっと見た。
『ん? 聞いてほしいこと?』
『あ、ああ、その……』
……俺は、覚悟を決めた。
『……リリアさん、俺、リリアさんのことが、好きです。リリアさんが遠くに行ってしまっても、ずっと愛してます。だから、俺のこと、忘れないでほしい』
……ついに言った。フランス語で言った。
ちょっと後半が強引だったかなと思わなくもないが、それでもいい。
リリアさんのことが好きだということ。俺の気持ちは変わることはない。
『……ショウタ……!』
リリアさんはニコッと笑顔を見せ、俺にそのまま抱きついてきた……って、えええ!?
『え!? あ、り、リリアさん……?』
『……嬉しい、ショウタが私のこと好きって言ってくれた……私もショウタが好きです。ちょっとの間離れちゃうけど、こっちに戻って来たら、デートしようね』
リリアさんも、俺のことが好きだと言ってくれた。
…………。
……あれ? その後リリアさん、なんて言った?
『……あ、あれ? リリアさん、最後の方なんて言った……?』
『え? ちょっとの間離れちゃうけど、こっちに戻って来たら、デートしようねって。あれ? そのことじゃなくて?』
『……ん? こっちに戻って来る……?』
『うん、さっき言い忘れたけど、おばあちゃんがフランスに戻って来てって言ってるのは、おじいちゃんが病気になっちゃって入院するからなんだ。まぁ病院で元気にしているらしいんだけど、ちょっと心配でね』
……あ、な、なるほど、ということは、ずっと向こうにいるのではなくて、しばらくの間……ということなのか。リリアさんが真面目な声で言いづらそうにしていたから、ずっと向こうにいるものだと思ってしまった。
『あ、そ、そうだったのか……お、俺てっきりまた転校するのかと……』
『ううん、帰って来るのは九月になっちゃうかもしれないけど、学校は変わらないよ。だから、またショウタと一緒に学校に行きたいな!』
そう言ってリリアさんが俺をぎゅっと抱きしめた。俺もそっとリリアさんを抱きしめる……ああ、リリアさんいいにおいだな……って、な、なんか急に恥ずかしくなってきた……!
『……あ、り、リリアさん、その、あの……』
『……えへへ、ショウタ、大好きだよ。あ、大好きって日本語でどう言うの?』
『あ、ああ、こ、こう言う……』
俺はフランス語で言った後、「大好き」と日本語で言った。
『そっか、ダイスキか……覚えておかないとね』
そう言ったリリアさんは、俺の耳元で、「ショウタ、だいすき」と日本語で言った。リリアさんの吐息が俺の耳に当たり、俺は胸のドキドキが一層大きくなった。
『り、リリアさん、そ、そろそろ離れた方がいいんじゃないかな……』
『えー、ショウタのケチー。でも、ショウタ、ありがとう。私嬉しい。大好きなショウタと、楽しいことたくさんしたいな!』
ニコッと笑顔を見せるリリアさんが、可愛く見えた。
…………。
……はっ!? ま、またぼーっとしてしまった。いかんいかん。
でも、リリアさんが日本に戻って来ると知って、ほっとしたのと同時に、嬉しい気持ちになった俺だった。
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