第39話「一学期も終わって」

 一学期の終業式の日となった。

 今日は全校集会があった後、ホームルームがあって終わる。一学期もあっという間だったなと思う俺がいる。


 なんといっても、リリアさんが転校してきたのが一番大きいだろう。それまでの俺のひとりぼっち生活は、いい意味で破壊された。『いい意味で』と言えるのは、リリアさんと友達になり、楽しい学校生活を送ることができたからだと思っている。


 そして、黒瀬さんという勉強ができる女の子とも友達になり、俺はそちらも嬉しかった。友達というのがこんなにいいものだったなんて、二人がいないと気が付けなかったことだ。


『ねぇショウタ、今日はもう終わりなの?』


 俺の隣から流暢なフランス語が聞こえてきた。もちろんリリアさんだ。ぼーっと今までのことを思い出していたら、いつの間にかホームルームが終わっていたらしい。


『ああ、今日はこれで終わりだな。学期の最後の日はこんなもんだよ』

『そっかー、でも校長先生が話していたこと、ほとんど分からなかったなー。もっと日本語の勉強しよっと!』


 ふんふんと鼻息を荒くして、気合いを入れていたリリアさんだった。それでもリリアさんはひらがなやカタカナ、簡単な漢字も分かるようになってきて、この一学期で十分勉強してきたと思う。少しずつ覚えていけばいい。


『いやいや、リリアさんは頑張ってるよ。あまり慌てないようにね』

『えへへー、私もやればできるでしょー! ショウタ、また日本語教えてくれる?』

『ああ、俺でよければ教えるよ』

『ありがとう! あ、日本語で言わないと』


 そう言ったリリアさんが、


「ショウタ、ありがとう」


 と、笑顔で言った。

 ……その笑顔が、可愛く見えた。


 …………。


 ……はっ!? お、俺は何を考えているのだろう。


『リリアさん、綿貫くん、一学期も終わりましたね』


 その時、流暢な英語が聞こえてきた。見ると黒瀬さんがいた。ここは外国かと一瞬思ってしまうだろうが、日本なので安心してほしい。誰に言っているのだろうか。


『あ、フウカ! 今日も終わりだねー』

『あ、ああ、終わったな……まぁこんなもんか』

『毎回終業式は同じとはいえ、この一学期は今までと違う感じがします。なんといってもリリアさんと綿貫くんと話せるようになったのが大きいかなと』

『お、おう……俺も似たようなこと思ってたよ』

『えへへー、私たちもう友達だもんね! あ、勉強の記録? みたいなものもらったよね、私、英語が一番よかった!』

『あ、通知表ですね、それはよかったですね。まぁリリアさんなら当然の結果といいますか』

『英語はよかったけど、国語はあまりよくなかった……でも、先生がよく頑張ったねって言ってくれたよー!』


 嬉しそうなリリアさんだった。なんか俺も小学生の時に似たようなことを思っていたなと思い出した。


『国語は仕方ないです。リリアさんもまだまだ勉強中ですし。これからも頑張っていけばいいのですよ。それに、綿貫くんが教えてくれます』

『え、あ、やっぱり俺なのか……?』

『もちろんです。隣の席で、フランス語も話せる綿貫くんが一番頼りになるでしょう』

『うん! ショウタがまた日本語教えてくれるって!』

『あ、ま、まぁ、俺なんかでよければ……』


 なんだろう、他の人に言われるとちょっと恥ずかしくなってしまうな。


『恥ずかしがらなくていいのですよ。あ、そういえばこの前話してた、三人でお出かけする話、今度の土曜日にさっそく行ってみませんか? 二人は大丈夫ですか?』

『土曜日? うん、私は大丈夫だよー! なんか楽しみ!』

『あ、ああ、俺も大丈夫……』

『よかったです。夏休みに友達と遊びに行くというのを、私もやってみたかったのです』


 な、なんか黒瀬さんも変わった願望があったんだなと思ってしまったが、口に出すのはやめておいた。


『えへへー、三人で行くのも楽しそうだね! 可愛い格好して行こーっと!』

『リリアさんは可愛いから、私服も可愛いんでしょうね。私もたまにはおしゃれをしてみるつもりです』

『フウカも長い黒髪が綺麗だから、可愛いよ! おしゃれしようね!』


 そんな感じで盛り上がる女の子二人だった。ま、まぁいいか。


『綿貫くんの私服姿というのは、どんな感じなのでしょうね』

『え、あ、どんな感じ……って、普通だと思うが……』

『ショウタもカッコいいよ! なんかできる男って感じ!』

『そうでしたか、普段とは違う一面が見れそうで、楽しみですね』


 楽しそうな女の子二人……に、ついていくのが大変だった。

 ま、まぁそれはいいとして、一学期も無事に終わり、ほっとしている俺だった。

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