後日談「文化祭とリリアさん」

 ――あれからさらに月日は流れ、十一月。


 俺、綿貫わたぬき翔太しょうたは、相変わらず勉強で忙しい毎日を送っていた。

 いつも言っていることだが、勉強オタクに休みなんてない。まだまだ学びたいことはたくさんあるのだ。ちょっとおかしい人だろうか。


 そんな勉強オタクの俺も、今日は休憩。

 というのも、今日は学校の文化祭なのだ。


 みんなあれこれと考えて、それぞれのクラスで出し物を決めて、準備の段階から楽しんでいた。以前の俺だったら、こんな文化祭なんて休みたくなるイベントだったが、今は違う。なんなら自ら率先してクラスの手伝いをしていた。俺も成長したものだな。自分で言うのもどうかと思うが。


 なぜ、こんなにやる気を出しているかというと――

 

『ねぇショウタ、この衣装、どうかな? どうかな?』


 流暢なフランス語が聞こえる。ここはフランスではない。日本だ。

 衣装がどうとか話しかけてきたのは、リリア・ルフェーブルさん。同じクラスの女の子。そして俺の大事な人だ。

 名前から分かる通り、彼女は日本人ではなく、日本とフランスのハーフ。今年転校してきた。明るい栗色のショートカットで、目が二重で大きく、少し彫りが深く、鼻も高く、ハーフらしい顔立ちの女の子。

 彼女がいてくれるからこそ、俺は文化祭にもやる気を出すし、楽しい学校生活を送れていると言えるだろう。

 

『あ、ああ、いいんじゃないかな……』

『だよね!? だよね!? でも、ショウタは可愛いって言ってくれないんだね……』

『え、あ、その、か、可愛いよ……』

『えへへー、ショウタが可愛いって言ってくれた! 嬉しいなー! あ、可愛いは日本語でカワイイだよね!?』


 リリアさんが「かわいい、かわいい」と日本語で言っていた。ま、まぁ、楽しそうで何より。


「……ちょ、ちょっと、黒瀬くろせさん」


 俺はたこ焼き器の準備をしていた黒瀬くろせ風花ふうかさんに話しかけた。彼女は学級委員で、勉強ができる女の子だ。


「はい、綿貫くん、どうかしましたか?」

「な、なんでうちのクラスはたこ焼き屋なのに、リリアさんはメイドの格好しているんだ……!?」

「いいじゃないですか、リリアさんはうちのクラスのアイドルなのですよ。それに、本人が『メイドの格好したい!』って言いましたよ」

「そ、それは黒瀬さんたちがリリアさんに激推ししたから……」

「……あ、分かりました、綿貫くんは他の男の子に可愛いリリアさんを見られるのが嫌なのですね」

「え!? い、いや、ちが――」

「分かりますよ、大事な彼女は独り占めしたくなるものです。でも今日だけは許してあげてください。ここはメイドたこ焼き屋になるのですから」


 な、なんだそのメイドたこ焼き屋というのは……と思ったが、何も言い返せない俺だった。

 ……ま、まぁ、可愛いリリアさん目当てで来る男もいるだろう。何かされないか俺が見ておかないと……ちょっとそれはやりすぎだろうか。


「あー、綿貫くん、嫉妬ってやつー?」

「おいおい綿貫、いいじゃんか。可愛いリリアさんが見れるんだからさー」


 クラスメイトが次々と言う。友達がいなかった俺だが、あれからクラスに自分から入っていくと、少しずつ話せる人が増えてきた。

 まぁ、それも一番最初に友達になってくれた、リリアさんのおかげだ。リリアさんが友達の大切さを教えてくれた。


「い、いや、別に……嫉妬とかそういうわけでは……」

『ねぇショウタ、みんなで何話しているの? 私にも教えて!』


 メイド姿のリリアさんが突然乱入してきた。こ、これは教えることはできない……。


『い、いや、なんでもない……今日は頑張ろうってみんなで話してたとこ』

『そっかー、うんうん、頑張ろうね! 私は日本語がまだ少ししか分からないけど、ショウタもフウカもいるし、接客もなんとかなりそう!』


 リリアさんはそう言って、「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」と日本語で言っていた。そういえば覚えていたな。


 そんな感じで、我がクラスのメイドたこ焼き屋という不思議なお店が開店した。出だしから好調で、たくさん人が来てくれる。「わぁ、リリアさん可愛い~!」と、女の子たちがリリアさんと一緒に写真を撮っていた。ま、まぁいいか。


『ショウタ! タコヤキって面白いね! まんまるで、中にタコが入ってるなんて!』

『ああ、さすがにフランスにはないのかな。あ、最後にリリアさんだけ特別に食べさせてもらったらどうだ? 俺がみんなには話しておくよ』

『えー! いいの!? 楽しみにして頑張るよー!』


 楽しそうなリリアさんを見ると、こちらも嬉しくなる。


「リリアさん、楽しそうでよかったですね」


 黒瀬さんが俺の隣でぽつりと言った。


「ああ、これも日本の文化に触れるってやつかな、よかったよ」

「そうですね。リリアさんの彼氏として、今日のリリアさんはどうですか?」

「え!? あ、まぁ……か、可愛いからいいんじゃないかな」

「……綿貫くんも、ちょっとは素直になってきたかもしれませんね」


 ふふふと笑った黒瀬さんだった。そ、そうかな、自分ではよく分からないが……。


『ねぇショウタ、カワイイってたくさん言ってもらえるよー! 嬉しい!』


 ……まぁ、リリアさんが楽しいと思ってくれるのが一番だ。

 あとで、リリアさんと一緒に文化祭を見て回ろうかなと、俺は思っていた。

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勉強しか興味がなかったのに、転校生に翻弄されています。 りおん @rion96194

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