第47話「夏祭りというものは」
夏休みも勉強で忙しい俺だった。
そんな俺が、今日は夏祭りに出かけることになっている。夏っぽいイベントなのは間違いないが、俺は友達がいなかったので夏祭りなんて縁がなかった。ひとりぼっちで行っても面白くないしな。
でも、今は違う。俺にも友達がいるのだ。今日はリリアさんとエマちゃんと一緒に行くことになっていた。昨日もリリアさんから電話がかかってきて、『明日楽しみにしてるね!』と言われた。まぁ日本に来て初めての夏だ、楽しんでほしいなと思っていた俺だった。
……不思議なものだな、以前だったらそんなのどうでもいいと思っていたはずだ。密かに俺も楽しみなのは、俺も変わったということなのだろう。
ピンポーン。
部屋であれこれ準備をしていると、インターホンが鳴った。リリアさんたちが来たのかな、俺は玄関に出る。
「あ、こんにち――」
俺は挨拶をしかけて、固まってしまった。そこにいたリリアさんとエマちゃんは――
「ショウタ、こんにちは!」
日本語で挨拶をしたリリアさん。びっくりしたのはそこではない。リリアさんは赤い百合の花がデザインされた浴衣に身を包んでいたのだ。エマちゃんも青を基調とした白い花がデザインされた浴衣を着ている。
『えへへ、ママがね、ユカタ? っていうの着てみてって言うから、着てみたよ! どうかな?』
『おにいちゃん、エマかわいい?』
二人がニコニコ笑顔でそう言った。あ、いや、まぁ、二人ともよく似合っているというか……。
『あ、ああ、二人とも、か、可愛い……よ』
『えへへー、ショウタに可愛いって言ってもらえると嬉しいなー!』
『おにいちゃんも、なんかカッコいい』
『え、あ、そうかな、浴衣ではないけど、一応おしゃれしてみたというか……』
「――あら? あらまぁ! リリアちゃんとエマちゃんは可愛いわねぇ!」
奥から母さんがやって来た。
『あ、ショウタのママ! こんにち……じゃなかった』
わたわたと忙しいリリアさんが、「ママ、こんにちは!」と、日本語で言った。挨拶はもう完璧のようだな。
「こんにちはー、可愛いわねー、翔太、人が多いだろうから、二人をちゃんとエスコートするのよ」
「あ、ああ、じゃあ……行ってきます」
母さんに見送られて、俺たちは家を出た。大きな神社までは歩いて行けるが、二人が浴衣姿なのでいつもよりゆっくりと歩くことにした。
『なんか、不思議な感じだね、ユカタって。これが日本の夏なの?』
『まぁ、そうだな、日本らしいといえばそうかもしれないな』
『おにいちゃん、ユカタって、かんじあるの?』
『ああ、あるよ。でもエマちゃんにはちょっと難しいかもしれないね。今度書いてあげるよ』
そんな話をしながら、俺たちは神社へとやって来た。参道のあたりに出店が多く並んでいる。こういうものだったのかと、俺も新鮮な気持ちになった。
『へぇー! お店がたくさんあるね!』
『うん、二人とも好きなもの買っていいよ。俺が買ってあげるよ』
『え、ショウタ、お金がいるんじゃないの?』
『大丈夫、なぜか父さんからお小遣いもらっているんだ。こういう時こそ使わないとな』
『そっかー、ありがとうー! 何があるんだろー?』
楽しそうなリリアさんとエマちゃんを見て、よかったなと思った俺だった。
……そう思うのも、なんだか不思議なものだなと思った。俺が友達と一緒に夏祭りに来ているなんて、以前の俺に言ったら飛び上がるくらいびっくりしてしまうだろう。
『ショウタ、あのふわふわしたものは何?』
ぼーっとしていると、ふとリリアさんに話しかけられた。リリアさんが指さす方向にあるのは、わたあめだった。
『ああ、わたあめといって、ザラメという砂糖でできたお菓子だよ』
『へぇー、面白いねー! 食べてみたいかも!』
『よし、じゃあ買ってみようか、エマちゃんも食べる?』
『うん、ワタアメ、はつたいけん』
俺は出店のお兄さんに「三つください」と言って作ってもらった。
「そっちのお姉ちゃんたちは、外国の子かい?」
「あ、はい」
「そっかー、可愛い浴衣着てるねー、はいどうぞ」
お兄さんがわたあめをリリアさんに渡した。リリアさんは「ありがとう!」と日本語でお礼が言えた。
「おっ、日本語もできるのか、すごいなぁ。はい、こっちのお嬢ちゃんにも」
「あ、ありがとう」
エマちゃんもありがとうは覚えたみたいだな。よかったなと思った。
その後俺の分も受け取って、三人で食べてみることにした。
『わぁ、ふわふわしてるー! 面白いねー、食べてみようかな!』
リリアさんとエマちゃんが初めてのわたあめを食べる。
『んむんむ、美味しいー! 甘い感じがする! 口の中で溶けていくね!』
笑顔のリリアさんが、可愛く見えた。
…………。
……はっ、お、俺も食べないと。久しぶりにわたあめなんて食べたが、たまにはいいものだなと思った。
『おにいちゃん、おいしい』
『そっか、それはよかった。他にもあるから見てみようか』
なんだかんだで、夏祭りを楽しんでいる俺たちだった。
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