『聖域』

【あらすじ】


「いやあ、確かに駅前で、不審な男を見てね。黒い外套の中年男でした。若い女と話してましたな。女は子供を引き渡しました。いやあ、歳の差婚もあったものだな、と奇異に思って、印象に残ってますよ。いいなあ、うらやましいなあ。うちの家内ときたら、俺の年齢をいつの間にか追い越しちゃってね。年下だったはずなんですがね」

　中華鍋を動かすとき、金属の擦れる響きがする。胡椒と焦げたネギと、そこら辺の混ざった脂ぎった匂いが熱気とともに漂ってきた。油がはぜる激しい泡立ちは、食欲を刺激するスパイスだ。

「ええ、そうなんです。その子供の顔、まるで怪物のようでした。なんだろう、こう、ずれたような。だから、こんなんですよ。怪物というか、妖怪というか。肝をつぶしました。なんだか、見てはいけないものを見て…続きを読む