『聖域』

高黄森哉

プロローグ


  †オカルト・マニアック† 

~怪奇現象から、猟奇事件まで~




【テケテケの仕業か。クリスマスに起きた不気味な事件】



=事件の概要=


 きょう未明、五時五分ごろ、羽曳野市、恵我ノ荘駅付近の踏切で、二十代前半とみられる女性が、普通列車(六両編成)にはねられ、その場で死亡が確認された。大阪鉄道によると、運転手は約五メートルで非常ブレーキをかけたが間に合わなかった。遺体は損傷が激しく、当局は、身元の確認を進めている。

 遺体の上半身は、事故現場から百メートルほどの場所で、発見された。現場に居合わせた人によると、轢かれた当時はまだ意識があり話も出来たが、身体が腰で分断されており、死ぬことは明らかであったという。なお、現場からはいまだ、下半身は発見されていない。現場からは、遺書などは発見されておらず、警察は事件と事故の両面で捜査をしている。

 また、別の証言によると、事件直前、駅前の商店街で、女性は不審な中年男と話をしており、男性へ子供を引き渡した。男は、三十代から四十代、やせ形で服装は紺の甚平、子供は新生児くらいで、バスタオルにくるまれていた。この男、および子供の身元、行方は判っていない。

 当局は、証言者からモンタージュを作成しており、オンライン上でも情報収集を始めるとのことだ。

 大阪鉄道によると、この事故で、乗客に怪我はなかった。この影響で、二十五本が運休、計五十五本に遅れが生じ、最大で約二万五千人に影響した。


(〈聖夜に踏切で女性が死亡、現場からは遺体の一部が発見されず。不審な中年男、男児誘拐か〉/12月25日/インターネット・デイリー大阪より)



先輩A「という事件だが、どう思う」

後輩B「ニュースになっていることからも、この事件が実際に起きたものだと保証されていますね☆」

先輩A「多くのオカルト的事件は証拠がないが、この事件にはそれがある。つまり本物といえる。実に興味深い。事件内容はまさに、現代版テケテケ、といったところか」

後輩B「テケテケってなんですか?☆」

先輩A「チームオカルトで働きつつ、君はテケテケも知らないのかね。よかろう。では次の記事で、テケテケについて詳しく解説しようと思う」

後輩B「お願いします!☆」



=テケテケとは=


 テケテケは、電車に轢かれて死んだ少女の霊だ。極寒の中、身体を両断されたため血管が凍り付き、失血死することが出来ずに長く苦しんだとされている。現場から彼女の下半身は見つかっていない。だからか、いまだにそれを探しており、この話を耳にした者のもとに現れては、腰を横に両断して、下半身を奪ってしまう。

 テケテケは腰から下がないので、手で移動するか浮遊するといわれている。その際に、テケテケという足音がする。いうまでもなく、この跫音が名前の由来である。

 彼女は。すさまじい速度で移動するが、真っすぐにしか走れないし、急には止まれないぞ。逃げるときは曲がり角をジグザグに折れよう。


先輩A「この怪談の不思議なところは、下半身が消えてしまったことだといえる」

後輩B「そうなんですか?☆」

先輩A「まず、上半身だけで生存することは医学上あり得るが、下半身は不可能だ。下半身に脳みそがあるのは男だけだからな、という冗談は置いておいて。脊髄だけでは、二足歩行という高度な処理はとれない」

先輩B「それもそうですね☆」

先輩A「そして、これが最も不思議なのだが、事件の時点で、テケテケはまだ普通の人間だったのだよ。だから、下半身の消失は別件なのだ」

後輩B「ほほう。すなわち、テケテケという妖怪成立の手前に、怪奇現象が起きていた、ということになりますね☆」

先輩A「その通り。だから、テケテケは、ある超常現象の被害者であると考察できる。この "現象" は繰り返された。それが、カシマレイコだ。彼女も同じ現象に巻き込まれたのだよ。似たような死、似たような怪異。私は、彼女たちの類似性を、創作上の姉妹関係では決してないと見ている」

後輩B「同じ現象に巻き込まれた別々の被害者、という視点で考えると、その類似は必然だったといえますね☆」

先輩A「 "現象" に巻き込まれると人は怪異化する。テケテケ、カシマレイコの共通点を洗うと、電車に轢かれること、その際に身体の一部を欠損すること、死ぬときに苦しんだこと、欠損した一部が見つからないこと、が浮かび上がる。そして、これらが"現象"の発動の条件だと推理できるだろう」

後輩B「ということはつまり☆」

先輩A「その”現象”は、今年のクリスマスに再現されてしまったということだ。今後、人体の一部が見つからないという不可解な事件が、あの町周辺では、たびたび起こるかもしれない。まるでテケテケの仕業かのような」

後輩B「目が離せませんね☆」



=ライター紹介=


【先輩A】

 高校時代、広報部の部員を務めたとき、物書きとして働きたいと強く思うようになる。大学時代に、当時、オカルトブームだったこともあり、心霊スポット巡礼サークルに所属。その頃に、オカルトへ興味を持つ。もともとはオカルトマニアックの読者だったが、社会人三年目に副業としてライターを始める。今では、チームオカルトのエースとして専業で働いている。


【後輩B】

 こんにちは、チームオカルトの後輩B です! 趣味は激辛カレー。オカルト好きが高じてチームオカルトに就職することになりました。子供時代から、B 級ホラー映画が好きな変な子供でしたから、……… 天職です(笑)私の専門はずばり、体当たり取材。今日も霊障に触れるべく、カメラメモ両手に奔走中。以後、お見知りおきを。





(チームオカルト/オカルトマニアック/十月二十五日の記事/先輩A・後輩B)

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