第30話 紅VS白

「なるほどな。お前は良い意味でも、悪い意味でも異常って事か」

「僕、良い意味で異常なんてあまり聞いた事ないんだけどな」

「だからどうした。全く無い訳じゃない。あるにはあるさ。それにな、強さを求めれば求める程周りはそれを異常だと言う。自分達と比べて、必死に強さを求める者が理解できないからだ。儂達もその者達の事を理解はできないだろう。何故上のステージに行く事を諦めている。何故心を燃やして頑張る事ができん」


李克の言う通りである。何度も見てきたから、実感しているのだ。強さを求めない者は強さを求めている者が分からない。強さを求めている者は強さを求めない者の事が分からない。強さを求めない者は何故あそこまで必死になれるのかが分からない。


どうせ出来ないから、時間が無駄になるから、挫折するのが怖いから。強さを、高みを求めない者はいつもこんな思考だ。もしかしたら、他のもあるのかもしれない。しかし理玖がより多く確認できたのがこれらだった。


しかし強さを求める者が強さを求めない者に対して思うのは何故しない、という事だ。今という現状を変えたいと思うならば、何故足掻かない。何故今を維持しようとする。今という地点を維持する停滞に固執する。辛いものが沢山あるのかもしれない。けれどもそれは強さを求める者も同じ事だ。


強さを求める者と、強さを求めない者とでは、根本的に性質が違う。強さを求める者も、強さを求めない者も頑張らないと自身に風向きが来ないのを知っている。一部は分かっていない者もいるが、大体は分かっているであろう。そこからが、そこからが問題なのだ。


強さを求める者は、怖くても足を進める。強さを求めない者は、その怖さで足が止まる。強さを、高みを目指していないから足が止まる。それが違い。強さを求める者と強さを求めない者の決定的で、致命的な違いだ。


理玖の曖昧だった強さの基準が李克の言葉で塗り替えられる。通常の理玖の性格は完全に強さを求める性格とは言えない。しかしそんな性格が強さへと染まる。


理玖はどこかで心が冷めていたのかもしれない。魔王であるから、という今に頼って停滞しようとしていたのかもしれない。だから、心の中で燃えるのだ。獅子状態でも無いのに明確な闘志が生まれる。しかし獅子のように乱暴で、暴力な闘志では無い。冷静で、相手の一手一手を観察している雪のような闘志だ。


「少し、ワクワクしてきたね。新魔法、試させてもらうよ」


焔光雪糸柱エドリューゼ


手と手を重ね、地面に触れる。そして自身に纏っている灼熱の炎を、冷気を放つ凍てつく炎に変化させる。魔力で線を描き、炎の通り道を作る。凍てつく炎が通り道を通る。全ての通り道に凍てつく炎で満たせた後、活性化させる。凍てつく炎の出力を増大させる事で周囲の温度が一気に下がる。


その温度低下で冷えた牢獄へと変身を遂げる。冷えた温度は約-500℃である。色々な物体を作っている分子が完全に動かなくなる絶対零度は約273℃であるが、その数値を大幅に下回っている。李克は炎とまではいかなくとも寒さに耐性がある。そんな李克にも限界というのはある。


絶対零度ですら防寒耐性の限界を余裕で超えているのだ。その温度を大きく下回っている-500℃ならばどうなるのだろうか。素の防寒耐性だけでは絶対に耐える事はできない。これは推測となってしまうのだが、高温の白炎を展開している事で寒さを緩和しているのだろう。


先程までは白炎を毎秒纏っている訳では無かった。必要な時に必要な場所のみに展開をしていた。


李克はその現状に冷や汗が流れる。このままでは自身が死んでしまうと感じたのだろう。理玖の紅蓮状態の時のように素で炎を纏っているのでは無い。灼熱と言える程に高温なのは、魔力の活性化の仕方、魔力効率が良いからに限ってくる。しかし幾ら魔力効率が良かったとしても、限りは来る。魔力を使って炎を発生し、使用しているのだから。


白炎を強く纏っている右腕を振るうと、白炎が理玖に向かって飛んでくる。その攻撃に対して、理玖は『焔光雪糸柱』の凍てつく炎で氷を出現させて凍らせる。その氷の範囲は途轍も無く、白炎だけでは止まらず、後ろに居た李克すら巻き込もうとしていた。その氷の範囲は簡単に見積もって直径500メートル程だ。


その氷は範囲は大きかったのだが、速さはまあまあだ。李克程の実力者ならば避ける事など造作も無いだろう。その証拠として李克は氷を跳んだ回避した後、再び白炎を向かわせてきた。あれ程の範囲を放ったのならば、連続して放たないと判断したからだろう。その判断、間違いでは無い。事実、理玖は気分が乗ってあの氷を放ったが、連続して撃てない。


その判断は正しい。だから理玖が避けれるギリギリの速さで放ったのだ。この戦場を自身の風向きに向かわせる為に。自身が風向きを掴む為に。


しかしもう一つの判断を見誤ってしまった。『焔光雪糸柱』の力をあれだけだと勘違いしてしまった。この氷銀世界で空中に溢れている冷気が誰の者か忘れてしまった。誰の炎から、誰が出したのか、という事を忘れてしまった。いや、消去していたのだろう。


本来、そんな事はありえない。魔力という法則がこの現象を許さない筈だ。


「ありえない、それを実現するのが魔王ってもんだよ。空想だろうと、夢想だろうと、幻想だろうと全てを真にする。理不尽の象徴、それが僕なんだよ。魔王様なんだよねえ!」

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