第29話 蒼月破壊の一手/皆を守る為の一手

「シャロン、着いたよ」

『了解しました。……すみません、エンド様にこんな事をさせてしまうなど』

「別に、僕は気にしてなんかいないよ。それに、これは僕以外には務まらないでしょ。だから大丈夫だよ」


理玖は自身の仕事用のスマホでそう返事をした後、空を見上げる。混沌と言える禍々しい魔法が落ちてくる。目を閉じ、偏愛の影を吸収した事で得たスキルを使用する。


特訓で使用した事はある。しかし対人、対人外では使用した事が無い。シャロンの『武装』と同じで組織内の中でも極少数の者達にしか告げていない。影とは言え、十二狂典の強烈なスキルが混沌を打ち消す。


極羅船理ノ愛エイギルビルミック


スキルと混沌がぶつかる時、爆発が生じる。煙と共に魔力が周囲に拡散される。理玖が密かに結界を張っていなければ、この星全ての自然が、命が枯れている事だろう。


煙が濃く、理玖が目を細めていると、上空から着物姿の男が現れる。不機嫌そうに、怒りを露わにするように睨みつける。両者が立ち止まってから数秒後、最初に動き出したのは男だった。白炎を口から吐き、向かわせる。その攻撃に対し、紅蓮状態に変化して紅色の炎で打ち消す。


今度こそ攻撃を与えるつもりか、男は手を思いっきり振り、炎を発生させる。しかしそれすらも理玖は打ち消す。


「あのスキル、偏愛様のものだ。完全なものでは無いとは言え、簡単なものでは断じて無い。貴様、偏愛様の影を吸収した者だな。儂は李克りこつ。十二狂典の皆様に仕えている側仕えだ」

「丁寧な紹介をどうも。僕は無名無法王冠の魔王エンドだ」


互いの自己紹介を終えた二人は拳に炎を込め、ぶつかり合う。片は白く、禍々しく燃える炎。片は紅色に染まっており、煌びやかに、美しく舞っている炎だ。拳がぶつかり、脚がぶつかり、膝がぶつかる。時偶、防御する隙なく直撃する事がある。しかし、止まらない。魔王である理玖も、側仕えである李克も。


理玖の出した拳を李克は掴む。その李克が掴んだ腕に炎が流れ込む。理玖の炎とはまた違った炎。炎に極めて耐性がある今の紅蓮状態でもダメージが来る白炎が腕を侵食する。しかし李克は判断を間違えた。理玖がその程度で止まる、という判断ミスをした。


今可能な魔力を口に集め、発射する。時間を中々に集められなかった為、威力はあまり存在していなかった。今ある事実として、李克には効いていなかった。けれども、それで十分だった。今の理玖の目的は多くのダメージを与える事では無い。先程の目的は腕の拘束を離す為のものだ。


突然の魔法攻撃にも対応し、空中バク転で受け身を取った李克を見ながら掴まれた腕を見る。其処には火傷痕のような、白いものが残っていた。その白い火傷痕のようなものは、蠢いていた。その白い火傷痕のようなものが蠢く度に激痛が走る。


「どうだ、儂の白業は随分と痛いだろ。貴様程の耐性力は十二狂典のお方達しか居なかった。少し、惜しいな。貴様のような強者のエルフは極めて少ない。300歳でそれ程の高みに存在しているのは片手で数えれる程だ」

「勝手に僕が死ぬ前提で考えないでくれるかな」


理玖は極めて冷静な顔で腕を斬り飛ばす。そして紅蓮状態の特徴の一つである再生力を使用して、地面が汚れる前に腕を再生させる。


その光景を目の当たりにした李克の瞳は人間を見る目から敵を見る目に変化していく。外から見た瞳だけでも、警戒心を一気に底上げしていた。その瞳に理玖は当たり前だ、と心の中で呟く。再生というのは魔力効率が極めて悪い。通常の魔法、つまり攻撃魔法や拘束魔法、幻塊魔法よりも更に効率が悪い。ロスを弱めるのが他の魔法よりも難しい、消費魔力が平均的に高いのが効率の悪さに当たるだろう。


しかしこの形態は再生に適正がある。魔法の再生を知っていればいる程、紅蓮状態の理玖の異常さが分かってくる。浮き彫りになってくる。


「其処までの再生の速さ……魔力のゴリ押し、というやつか?いや、違うな。貴様のその再生の速さの秘訣は、補助だろう。今思えば最初、貴様は連絡を取っていた。その連絡は再生の為の補助を同じ組織の者に命令していた。違うか?」

「どうだろうねえ」


理玖は答えは言わないと行動で示しているのだが、李克としてはそれが正解だと判断している。理玖の瞳の情報からも、そう思っていると判断できた。再生魔法の補助を使える者は少ない。それを使える者が都合良く無名無法王冠に居るのは都合が良すぎるのでは、と思うが、この姿のおかげ、というよりかは現実的だろう。


魔法に、魔力に長けていれば、長けている程騙される。事実、シャロンも紅蓮状態に変化しての再生力には最初よく分かっていなかった。


李克と理玖はそんな会話をした後、戦闘を続行しようと李克は理玖の方向に向かう。そして理玖に強烈な魔法を発動しようと、確実に当てようとして超至近距離で魔法を展開する。しかし来るのが分かっていて素直に受ける程純粋じゃ無い。


短い時間で構えた理玖は、自身に纏っている炎を利用して魔法を発動させる。李克と理玖の魔法は奇跡的に同じタイミングでぶつかる。いや、奇跡では無い。理玖が意図的に同じタイミングに魔法をぶつけた。


「凄いでしょ、この形態だけできる超速攻魔法は」

「この歳で此処まで……!想像以上だ」

「あのさあ、触れないでおこうと思ったけど、我慢の限界だから触れるよ?僕は300歳じゃないよ。最近12歳になった一般エルフだよ」

「は?はぁ?いやいや12歳のエルフはまだ赤子だろ。その姿はまだ300歳か其処らの……マジ?」

「大マジ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る