第28話 修行中魔王様=戦闘魔王様

紅蓮状態である理玖の赤いメッシュを生やしている頭に勢いが強い滝が当たる。今の理玖にとっては水が弱点の筈である。紅蓮状態は少し癖があれど、炎属性の形態には変わりない。


不死鳥という幻獣の一種ではあるのだが、弱点はもちろんとして存在している。人間を超越している幻獣だとしても、生きているのだ。


このまま理玖が水に当たり続ければ命の危機になる筈……だった。理玖が全身に纏っている微弱な炎が肥大化し始める。今理玖に当たっている滝を炎が呑み込む。人からは考えられない程の熱量の吐息を吐く。滝当たりという修行をした事で紅蓮状態が進化を果たした。


その弊害として、出た吐息が地面を抉る。抉った地面からは熱々と熱を発していた。自分に対しての呆れを露わにするように、ため息を吐く。その行動に理玖はあ、という言葉にもならない発言した後、ため息の行き先を瞳に映す。其処には先程よりも更に抉れている地面があった。


その光景に理玖はすー、と息を吸い込む。自分のやらかした事、失態を認める。先程同じ事をしたのに、今度も同じ事をした。自分の学習能力の無さに呆れの念を込めて頭をガリッと掻く。その掻いた手からは、自身の白銀の髪だった。


その抜けた髪を放り投げ、ある方向を見つめる。


「いつまで、隠れてるつもり?」


理玖がそう口に出すと、向いている方向から魔法が飛んできた。理玖はその魔法を避ける事など無く、当たる。しかしなんて事の無いように歩き出す。事実、理玖はダメージを一つも貰っていない。もしダメージを与えられていたとしても、理玖の紅蓮状態は再生能力が凄まじい。魔法を使わずとも、魔力を使わずとも、素の再生力が高いのだ。


魔法が連射される。その魔法に理玖は止まらない。意識が決して向く事はない。ただ、翼を揺らしただけだった。赤色の、紅蓮に燃える羽が、連射された魔法の近くに飛んでいく。


羽が光る。膨大な熱を持ち、赤く、煌びやかに燃える。羽から爆発が起こる。あの程度の魔法には勿体無さを感じる程の威力。


森の木々を壊し、突進してくる魔法を魔瞳で感知した。先程の連射魔法を全て圧縮したとしても届かない程の内包エネルギーだった。しかし、理玖はそんな魔法にすら興味を惹かれない。獅子状態の時程戦闘狂では無い、というのもある。それに加え、強さがあまり無いのもある。


あの十二狂典の影達でも、七人が居て獅子状態の理玖と渡り合っていた。あまり戦闘向きの形態では無いとはいえ、強化された紅蓮状態に影一人は不十分だった。無名、無法状態でも今の理玖ならば五人だったら片手で葬れる程の実力があるのだ。


あの憎悪の影が理玖を傷つける事など、ゼロに近い……いや、全くのゼロである。


片手を魔法を受け止める。苦しみの表情もせず、痛みの表情も浮かばなかった。ダメージを受けないのを当然かのように思っている態度だった。


「本当に、勝てると思ってるの?」


理玖のその言葉に、憎悪の影は関係無いと言わんばかりに魔法を展開しながら向かってくる。魔法を手の裏で弾きながら憎悪の影の拳を受け止める。


憎悪の影は憎そうに睨むのだが、瞬時にその表情が崩れ去る。声にならない悲鳴をあげる。何とか自身を掴んでいる理玖の手を離そうと魔法を展開して放出するが、離さない。魔法が理玖の炎に包まれ、呑まれてしまった。


しかしそれでも、憎悪の影は抵抗を止める事は無い。理玖はその行動に、望み通りに離した。それに憎悪の影は驚き、目を見開くが、すぐに苦痛の表情に変えた。踵で腹を蹴り、痛みで止まっているほんの数秒で回し蹴りを喰らわせる。


森という自然を壊しながら憎悪の影は吹き飛ばされていく。吹き飛ばされている隙だらけの機会を見逃さない。今理玖が持っている魔王形態の中で最速を誇っている紅蓮状態の俊敏で高速移動をする。


理玖は突如憎悪の影の上に出現する。急な出現、先程の魔力すら焼き尽くす延焼のオーラ。今の憎悪の影は理玖の攻撃を防ぐ術は持ち合わせていなかった。鳥に変化した脚で蹴りを喰らわせる。魔王形態の中で一番の蹴りの力を持って喰らわせた。


憎悪の影に大ダメージだけでは無く、周囲にも被害が生じていた。半径350mのクレーターが発生した。加減したとは言え、強く蹴り過ぎてしまった己に反省しつつも、憎悪の影を逃さない為に自身の脚の力を強める。


「わ、我等が何をした。貴様が勝手に攻撃をしてきたのに……殺されるというのか!?ふざけるな、理不尽だ!」

「君達、喋れるんだ」

「うるさい!さっさと答えろ!」


理玖は自身の気分次第で簡単に殺せるのにも関わらず、強気にいられる憎悪の影に呆れのため息を吐くと同時に冷めた視線を向ける。


そんなため息と視線にも気づかず、ギャーギャーと騒ぎ続ける憎悪の影に、理玖の中に怒りという感情が生まれる。その怒りに理玖は少し身体を任せ、額に青筋を浮かべる。怒りを込めて、脚を一旦退かしてもう一度強烈な脚を喰らわせる。それに憎悪の影は喋る事ができていなかった。


「喋ってやる、だから黙ってろよ。カスが」

「ゴガ……ァ、ァァ」

「僕がお前らを殺す理由?そんなの、決まってる。僕が敵対をしてるからだ。だから殺すんだ。王である僕が敵対する、って言ったから配下達も敵対している」


理玖のその言葉に、憎悪の影は「無茶苦茶」と振り絞ったような声で呟いた。


理玖はそれに特に反応する事など無く、憎悪の影の首を刎ねた。

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