第27話 機械少女の魔法習得

「元気?イリア」

「え?……マスター!?……来てくれたんですね。少し寂しかったので嬉しいです」

「あはは、ごめん」


理玖は魔力で空中を飛ぶのを止め、地面へと降りた後にイリアの機械である証明のような、冷たい頭を撫でる。ゴツゴツした頭なのだが、妙に撫で心地が良く感じる。人を撫でる時のような人肌の心地よさとは別の心地よさがあった。


機械であっても撫でられる気持ち良さ派感じるようで、イリアは気持ちよさそうに目を細めていた。昔と比べると、随分と感情が表に出るようになってきた。最初に出会った時と比べると段違いである。その事実に感慨深い感情が生まれてくるが、それを表には出さず、普段通りの口調でイリアに話しかける。


「僕は今日ね、イリアに魔法を教えに来たんだ」

「私に教えにきてくれたのですか!?嬉しいです、マスターが教えてくれた魔法覚えます。どんなに難しい魔法だろうと覚えます!」

「そう、ありがと。でも、大丈夫だと思うよ?イリアなら絶対に習得できる」


イリアはそうですか?という言葉を口にし、不思議そうに首を傾げている。しかし理玖にとっては絶対に習得できる、という確信を持っていた。あまりイリアの特訓や、教育の様子は見れていないのだが、それでも分かる。イリアは得意では無い広範囲の破壊魔法などは習得に少し時間が掛かる。しかし得意である広範囲の追尾魔法は驚異的な習得速度を見せる。


その速度は、シャロンから理玖に次ぐ習得速度だと話していた。その速度、ハッキリ言わせてもらうと異常以外何ものでも無い。理玖の成長速度、習得速度は、理玖の潜在能力ポテンシャルが影響しているのだ。魔王の魔力に相応しいと言えるほどの膨大な才能。それが理玖の異常な成長速度の正体だった。


ならばイリアはどうなのだろうか。イリアの潜在能力の高さが成長速度に作用しているのもあるだろうが、理玖に次ぐ成長速度、習得速度と言われる理由にはならない。


イリア自身の潜在能力以外にも、理玖の無名、無法状態の成長加速が影響もしている。いや、此方の方が影響力は圧倒的に強いだろう。普通の効果ならば此処まででは無い。イリアの無名、無法状態の成長加速効果の適正が高かったのだ。シャロンも高い方なのだが、イリアの適性はそれ以上である。


理玖はその点を踏まえ、イリアならば可能だと信頼しているのだ。速度面だけでは無く、精神面でも信頼しているから。例え今はできなくとも、不屈な精神で出来るまで努力するであろう、と知っているのだから。


「僕が教える魔法は、僕が開発した今は僕しか知らない魔法だよ。そして、イリアの為に開発した魔法でもある。君が使いやすいように、広範囲の追尾型魔法にしてある」


理玖は人差し指に魔法を展開する。イリアに教える為に創った広範囲の追尾型魔法だ。魔法名は『空雨ノ紅蒼アルウェリタン・インドリット・フィーアニーソニクス・ミニット・クールウェイズ・イゴラ』だ。


効果としては、空中に魔法弾を展開し、降り注ぐ魔法である。この魔法は少々特殊な魔法であり、強者相手には紅モードである威力が高い魔力散弾を。対応力があまり無い相手には蒼モードの特殊な魔力散弾を。


展開中の魔法を発射する前に自由に変化可能な魔法というのは、中々に少ない。長きの年を生きてきた者が多い最高幹部の中でも、展開中に自由に変化できる魔法というのは見た事ある者、知っている者は少ない。知っていたとしても、実用的な魔法を知識に入れている者は片手で数えられる程になってくる。


「変化する魔法、ですか。私にできるのでしょうか」

「僕から言わせて貰えばね、イリア程向いてる奴は居ないと思うよ。少なくとも、無名無法王冠の中ではね」

「マスター以上、なのですか?」

「まあ、そうだね」


紅蓮状態になる事ができたなら、この魔法の適性は格段に上昇する。しかし、それでもイリア程の適正を得る事は出来はしない。イリアは無名、無法状態を抜きにしても異常な適性がある。


イリアは理玖の自分以上にイリアは適正がある、という言葉に、信じられないと言わんばかりに目を見開かせる。そして理玖に向かって懐疑的な視線を送らせてくるのだが、理玖はその視線に苦笑いをするしか無かった。事実として、イリアは広範囲の追尾型魔法においては理玖以上なのだ。


イリアはまだその言葉を完全には信じられていないみたいなのだが、忠誠を誓っている理玖が言っている事なのだ。少しは、信じたみたいだ。イリアが理玖の人差し指先に展開している魔法に触れる。今は攻撃体勢には入っていないので安全である。


蒼く、紅色の火花を散らしている魔法を目に入れ、触れる。イリアの瞳の中で小さく、数式が展開されていた。この魔法を扱う為の魔力数式である。この魔法は、簡単にコピーされないよう、そしてイリアと理玖だけが使えるようにパスワードを仕組んだ。


イリアは最高幹部、そしてボスである理玖が鍛えている効果が出ている為、機械としては最高峰、いやそれ以上の高みに存在していた。なので一分毎にパスワードが変わる厄介な魔法だったとしても、イリアにとっては解けるのだ。


パスワードを解析し出してから13秒後、イリアは瞳の中にある数式を止め、理玖の人差し指に展開されてある魔法から指を離す。イリアはチラチラと此方の魔法を見ながら自身の人差し指に同じような魔法を展開させる。


理玖はまだ一時間も経っていないのに、習得したイリアに冷や汗が流れ、マジかよ、と言いそうになったが堪え、賞賛の声を贈る。


「だから、大丈夫って言ったでしょ?イリア」

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