第26話 判子押押仕事魔王様

「ねえ、シャロン」

「はい、何ですか?エンド様」


理玖は書類に許可ならば判子を、非許可ならば押さず、許可、非許可によって書類を分けながらシャロンに声を掛けた。


シャロンはすでに仕事が終わってる、他の刻王衆が優秀なのがある為、追加の仕事はやってこない。来たとしても、理玖が担当をする。部下に残業をさせ、その休暇時間を取りたくないからだ。仕事が遅い、などの理由は残業する理由にもなる。理玖だってそれは仕方ないと考える。しかし追加の仕事での残業を許さない、というの方針がある為、シャロンは優雅に紅茶を飲んでいた。


「イリア、どう?確かシャロンが育成係でしょ」

「才能はあります。努力できる性格もあります。ただ……」

「異常過ぎる、でしょ?それは僕にだって分かっている。ミロに関しても、イリアに関してもそうだ。過去を見させてもらったけど、今みたいに異常なまでの強さと成長能力では無かった」


シャロンはその言葉に沈黙を浮かべる。シャロンも心当たりはある。イリアやミロだけでは無い、シャロンだってそうなのだ。理玖と出会った時と今の時間帯では強さが段違いだ。


エイドルも、アランも、宗介も、フェナも、ラミエルも、リファエルも、ヘイランも。理玖と出会った時と今では全然違う。


この事実から考えられる可能性は幾つも考えられるのだが、一番高い可能性は理玖だ。理玖が魔王に目覚めた事によって、周りの者達、臣下が影響されている。この状態は理玖の無名、無法状態が関係している。前の魔王は、無名、無法状態は戦闘が得意な形態であると言えた。


しかし理玖はどうなのだろうか、戦闘が得意な形態とは言えないだろう。それでも戦える方なのだが、前の魔王と比べると何段階も、何十段階も劣る。この差は精神の差、と言えるだろう。前の魔王は一人で何とかできていた。それに比べて理玖は自分だけでは何とかできない、と感じる時があると周りに頼っている。


その精神の差で、前魔王は自身の圧倒的な強化を。現魔王である理玖は周りの者、味方の強化を。そう無名、無法状態での効果が分けられた。


「僕が原因、だろうね」

「……分かっていらっしゃったんですね」

「そりゃあね、魔王さんだから」


魔王としての勘が言っていた、理玖の魔王ノーマルフォームである無名、無法状態が原因なのだと。最初は気のせいか、と思っていたのだが、流石に何ヶ月もこの感覚に入っていれば分かる。


その時間が経ってようやく気付くのはどうなのだ、と自身の心の中で自虐を浮かべる。


その後は二人とも沈黙を貫き、判子を押していく。しかしその沈黙はシャロンの口からで壊された。


「イリアの様子ですが、とても頑張っておりますよ。けど、少し寂しがっています」

「分かった、今度会うよ」


理玖は最後の書類に判子を押した後、シャロンが座っているソファーに一緒に座る。魔力で紅茶を自身のカップに淹れる。紅茶の種類としてはシャロンお気に入りの紅茶である。理玖は幾つもの紅茶を飲んだ事はあれど、この紅茶は飲んだ事が無かった。


味としては中々渋いのだが、これはこれでありだな、と感じて飲み進める。多く飲むのは飲みやすい紅茶だ。しかし渋い、苦い紅茶を飲まないか、と言われれば否だろう。飲むのが多いのは、最高幹部達が良く飲んでいるレモンティーを筆頭とした飲みやすい紅茶であるが、個人的には苦い、渋い紅茶も同じくらいで好きなのだ。


それなのに何故飲みやすい紅茶が多いのかは、紅茶を飲む事が多いのは最高幹部達とだ。理玖個人で紅茶を飲むのは極めて少ない。


「僕が開発した魔法、教えようかな」

「やめてください。エンド様の開発した魔法ってふざけている魔法か、威力が途轍もない魔法しか無いじゃ無いですか」

「まともなのはあるよ。ほら、『白水温低エルフォニスト』とか」

「それ、白湯を出す魔法ですよね。確かに『パッパラピーヤ』と鳴る魔法よりかはマシでしょうけど」

「真面目に造ったんだけどね」


何故かあんな魔法になってるんだよね、と理玖がそう呟くと、シャロンが呆れの視線を飛ばした後、ため息を吐く。会った時からそうだった、という意思が込められたため息だったような気がした。少し失礼だと感じたが、それが事実なので、理玖からはなんとも言えない。


白湯を出すなどのふざけた魔法は除外をするとして、威力が途轍もない魔法もイリアには合わないだろう。初め見た時から感じていた事なのだが、イリアは豪快な魔法は得意では無い。何方かと言えば、紅蓮状態の理玖のように追尾型魔法や、治療魔法が得意だ。


イリアが向いている魔法を教える為に、無名、無法状態から紅蓮状態に変化する。大規模に炎を展開して変身するのでは無く、最小限で変身するものだ。効力はその分小さくなってしまうが、今はそれだけで充分である。


紅蓮状態の理玖と似ているだけであって、そのまんまでは断じてない。似ているようで、全然違う魔法を生み出していく。


その魔法の難易度は極めて高い。今の幹部達では可能な者が少数である。


「ま、大丈夫でしょ。イリアだし」

「魔法を新たに生み出しましたか……随分、期待してらっしゃるんですね」

「そりゃあね、シャロンしてるでしょ?イリアに期待を」

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