第7話 機械少女と魔王

「趣味が悪いっすね。本当に!」


宗介はそう叫びながら目の前の敵に向かって魔力の塊を連打する。


きっと先程の事を思い出しているのだろう。研究員たちによって説明された事を。亡骸を利用する、それは熱い男である宗介には許し難いのだ。


理玖は宗介の言葉に何も言わず、亡骸を利用された者達の首を斬り飛ばす。理玖は魔力が適合する事で耐性が付いているのだ。痛みに関しても、精神的な面に関しても。


全くの平気か、と言われれば否と答えるだろうが。


「宗介、宗介は地下に行ってくれ。其処に兵器がある。俺は助けを求めている子を救出しに行く」


理玖と宗介は別れる。理玖は上へ、宗介は下へと。


理玖は魔瞳をフル活用し、魔力を探知する。亡骸を斬って、斬って。斬りながら助けを求めている人工生命体を見つける事ができた。苦しい、と今にも泣き言を言いたそうな子を。今にも泣きたいであろう子を。


理玖は全身に魔力を纏い、全てを斬り伏せながら向かって行く。生きている者だろうと、死んでいる者だろうと、理玖を止める要因にはならない。


5階ほど上がった頃だろうか、どこからか魔法の発射音が聞こえる。魔瞳で何処からやって来るのかを探知し、その方向に向かって剣を構える。そして自身の剣に魔法を掛ける。


反魔ノ鏡通シアゲイン・デトリアス


近づいてくる魔法に剣を当てれば、その魔法は反射して戻っていく。これは魔法を反射する魔法だ。理玖自身が想像して創造した魔法である。


「即興で作った魔法とは言え、完成度はまあまあ良いな」


そう、この男、この魔法を反射する魔法を即興で作り出したのだ。そのまま喰らうのは気に入らないから、という理由で。


理玖は魔瞳で魔法を放射してきた者達の魔力を探知した後、『空虚ナ城』ですぐ側に移動する。そして自身の剣でリーダー格らしき漢の首を突き刺した後、他の者達にも剣を振るう。


一人は腹を切り裂かれ、一人は首と胴体が切り分かれし、一人は腹を何度も突き刺されていた。


理玖は魔力で全身付いた血を落とし、上を見据える。そろそろ飽きてきたのだ。理玖の行動基準は快、不快では無い。しかしつまらない戦闘を長く付き合う性格でも無い。


魔法を展開させ、発動させる。最上階にまで届くように、しかし最上階に居る子には攻撃をしないように。


紫色の光線が放たれる。体感するであろう、膨大な魔力による圧倒的な魔法による暴力を。








「貴様か?これをしたのは」

「まあ、そうだな。『黄泉ナル千獄エルドフト・アルバンス』、良い名前だろ?」

「何が良い名前だ。そんな品の無い魔法に名を付けて何の意味がある」


理玖は男の言葉に笑みを浮かべる。男は何が可笑しいのだと、怒鳴りつけるように聞くが、笑みを深めるだけだった。


そして理解する。この男は碌に殺しを体験した事が無いのだと。殺しの場を体験した事があるものは決まってこう言う。


『強力で厄介な魔法』だと。


幾つもの魔法を生み出し、魔法を長くの間研鑽してきたシャロンから聞いた話なのだが、変な特徴を持った魔法よりもシンプルに強力な魔法の方が厄介、という事らしい。理玖はそれに関して全面に同意する。相手にしていて厄介なのはシンプルで強力な魔法だ。


変に特徴がある魔法だとその特徴を読む事ができれば容易に対策は可能だ。しかしシンプルに強力な魔法の場合、却って対策は困難になる。


「品が無いか……逆に聞くけどさ、品で敵が殺せるか?」


理玖はお遊びで男にほんの少し殺意を込めて口にすると、男は突然魔法を行使し、此方に攻撃を仕掛けた。


理玖はそれに対して同じ量のエネルギーを持った魔法をぶつけると言う判断を即座に見せた。


男は魔法を行使する際に隙が生じ、其処を突けば勝てると思ったのか、男は後ろに回って攻撃をしようとしていた。しかしそれは判断間違いも良いところだ。


理玖は背後に手を置き、魔力を用いた衝撃波を発生させる。男はその衝撃波で吹き飛ばされ、飛んでいく。


理玖はその吹き飛んでいった男の背後に移動し、両手で拳を握った後、それを合してから男に叩き込み、地面に叩き落とす。


地面に叩き落とされた男は最上階の地面を突き抜け、下の階に落ちていく。


理玖は穴になった地面を通り、一階で倒れている男に向かって手を翳す。距離はかなり離れている。しかし今の男は満身創痍とは行かなくとも、理玖の攻撃を喰らった事で体力は減っている。今の体力で魔法を避ける事は辛いだろう。そして何よりも、理玖はこの程度の距離では外さない。


先刻のような膨大な質量の魔法ではなく、ある程度の魔力を収束させ、尖らせた魔法を撃ち放つ。


解キ放ツ閃光ノ矢アボケルドン・デニアス・ファンピーネ


その魔法が当たる時、理玖は魔瞳を巡らせる。


男が逃げないように、逃げたとしても探知できるようにする為だ。動く気配も、男の魔力も消失していた。理玖は一階へと降りる。


其処には理玖の魔法で腹を貫かれ、苦痛な顔で死んで逝った男がいた。


念の為、理玖は炎の魔法で死体を完全に焼く。後々死体を操る能力、魔法を持っている者がこの場に寄ったら面倒くさい事になるのは火を見るよりも明らかだったからだ。


理玖は再度『空虚ナ城』を発動させ、最上階に行き、奥にあった扉を開ける。その先には色々なチューブを体に引っ付け、魔力を放出している女の子がいた。


(悪趣味だな、あの男)


理玖は魔法を発動させ、女の子に引っ付いているチューブを破壊する。理玖の魔瞳であのチューブが魔力を吸収する役割しか無いのは看破済みだ。


「大丈夫か、少女」

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