第6話 6刻と魔王
ガサガサ、と草を踏む音が聞こえる。その草を踏んでいる者の正体とは、【無法の魔王】である理玖と【影法人の6刻】
「そういえば此処に何があるんすか」
「うん?言ってなかったっけ。施設があるみたいなんだよ」
宗介は理玖の施設という言葉に疑問を抱く。こんな所にそんなものがあるのか、というのもそうだが、理玖が何故期待するのか、が一番大きいだろう。
理玖は宗介が疑問を抱いている事に気づきながらも、今はそれを聞かないようにする。もし宗介が聞いてきたとしても答えないだろう。後のお楽しみだから、と言って隠すだろう。
長い雑草と大きく生えている木を邪魔に思いながらも、理玖と宗介は歩み進める。両者とも長ズボン、長袖を着てきているとは言え、邪魔なものは邪魔なのだ。特に低身長な理玖らしてみれば、長い雑草は邪魔以外の何者でも無い。
この雑草ども魔法で切ってやろうか、とそんな思考を巡らせていた理玖の背後で倒れる後が聞こえた。背後にいるのは宗介しか居ない。何が起こったのやら、と考えながら後ろを振り返ると、宗介が倒れていた。
理玖は宗介の頭をちょんちょんと突いていると、ピクリと反応があった。死んでしまった、昏倒してしまった訳では無さそうだ。
「体力切れました」
「本当にその体力の無さは何とかした方が良いんじゃ……いや、今回は僕が悪いか。あの世界からこの世界まで約135穣も渡った訳だしね。他の刻王衆でもこうなるか。よし、休憩をしよう」
「マジスか!?」
理玖と宗介は近くの木に登り、背中を預ける。最近は蒼月対策の為に動いてばっかりだったので、少しだけだがちゃんとした休みを取れると思い、息を吐く。そして理玖は自覚をする。動きの連続で心身ともに疲れていたのだと。
流石に動き過ぎたか、と理玖は反省の念を抱く。理玖は隣で休んでいる宗介を見る。
(少し、少しだけでも休んで良いかもな)
理玖は空を見上げる。カミアが前に言っていた事、綺麗なものを見れば心が癒される、というのを聞いていたからだ。
理玖は流れてくる雲、その雲の外から見える青空。戦闘によって荒んだ心が癒やされているのかどうかは分からないが、落ち着きはする。こんなのも良いな、と考えていると、突如理玖は顔を歪ませる。理玖の瞳、と言うよりも魔王の魔力で発現した
普段から魔力の流れが見えてると鬱陶しくて仕事がままならないので、基本的に魔力の流れを探知する機能は弱めにしてあるのだが、突如急に魔瞳の機能の出力が上がった。
この仕様は魔瞳の暴走などでは無く、理玖がこの機能にしたのだ。自身の危機に反応するように、と。
理玖はその機能を切る事無く、空気中に漂っている魔力の流れを読み取る。
その魔力から読み取った情報の中には、人工で生み出された魔力があった。
魔力とは生に直面している者に現れる現象だ。生に直面していなかったとしても、魔王のように強大な魔力を持ち得ていれば、魔力を持つ事もある。
理玖の頭にある情報で人工魔力を叩き出す。
人工生命体、それが答えだ。理玖は人工生命体だから、人の手で命を造るという行為にあまり危機感は無い。それは人工的にも自然にも同じだからだ。それだけだったら理玖は顔を歪ませない。
理玖が顔を歪ませる理由、それは悲痛な感情が強く現れているからだ。理玖の魔瞳は使用した魔力に込められている感情も読み取る事ができる。あまり強い感情でなくては読み取れないのだが。
理玖は周囲50kmに魔力を巡らせる。魔法を行使せずとも使える魔力探知方法である。
「見つけた。行くよ、宗介」
「ええー、もう行くんす……何かあったんすね。分かりました、どの方位ですか?」
理玖は宗介のその言葉に東の方位を指す。そしてすぐさま東に向かって跳んでいく。己が居た木から次の木に乗り移るように。
魔力を纏わなくても、そのくらいな身体能力ならば身体能力最弱とされる宗介も問題無く跳べる。先程はもう行くのか、などと文句を口にしたが、休憩は十分であった。
理玖達の移動するスピードがハイスピードだからなのか、すぐに施設を見つけられた。不可視の魔法を展開しているようだが、理玖には無駄そのものである。理玖の瞳である魔瞳は特別性であるからだ。
理玖は『箱』から剣を取り出す。不可視の魔法を晴らす為だ。あの魔法は並大抵の事では晴れない厄介な耐久性のある魔法ではあるが、膨大な魔力をぶつかられれば無力だ。人はこれをパワー戦法、脳筋、何も考えていない、と評するかもしれない。理不尽と評する者も出てくるかもしれない。
事実、少ない間だが理玖と敵対し、その戦法を取った事がある。理玖は敵対者にそう言われた。
理玖は魔法でも何でも無い、魔力を纏った斬撃を発生させる。その斬撃は目の前にある数々の木を斬り、不可視の魔法を消失させた。
「なるほど、これですか」
「そゆこと。だからよろしくな」
理玖の全を言わないその言葉。足りないにも程がある。しかし宗介はその足りない言葉に頷き、途轍もない速さで突っ込んでいく。
宗介はその途轍もない速さで近づいた後、壁を殴る。そして宗介の殴りの結果、割れ、崩れ去る。どんだけ柔らかいんだと、そうツッコミたくなるような硬さだが、ウチの部下が優秀過ぎたんだ、と自分で答えを出した。
理玖はその崩れた壁から宗介よりも速く入り、壁の近くに居た研究員を斬る。情報を聞けるように殺しまで行かないが、欠損はさせる。
理玖は部屋に居る者を全員切り裂いてから気づく。
(あれ、これもしかして相当不味く無い?僕の魔力って抑えてないよね?だとしたら……)
理玖はぎこちなく後ろを振り返ると、三分の二から生命反応が消えていた。理玖から冷や汗が流れる。魔王としてはとんでも無いくらいの失態である。
理玖は残った人達に話を聞こうと思い、歩き出したのだが、それを自分達を殺す前兆に思えたのか何なのか。研究員達はとあるスイッチを取り出した。理玖はそのスイッチに疑問を覚えていると、上からロボットが出てきた。
こいつら欠損してんのに割と元気やな、と感じながらも、理玖は剣を鞘に収めてロボットに向かっていく。小柄のロボットだからなのか、スピードはあるがパワーは無かった。無い方か、と問われれば悩む程度のパワーである。
理玖は自身に攻撃を仕掛けてくるロボットの腕を掴み、背負い投げをする。ロボットは掴まれた腕を解放する為に攻撃を仕掛ける。肩からミサイル発射装置を出現させたのだ。
理玖は腕を離し、発射されたミサイルを手で掴み、ロボットの心臓部分、核があるであろう場所に突き刺す。結果、ロボットがピリピリと電撃を発した後、ミサイル諸共爆発した。
「そんじゃ、良い?人工生命体に関して話があるんだよ。話してくれるよね?じゃないと……」
理玖はカチャリと音を鳴らしながら剣を少し抜く。脅すように見せかけながら。
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