第40話 未来と未来の為の戦争 8

「は?何それ」


リファエルの言葉に心底つまらなそうな声を口から出す。この男は自分中心に世界は回っていると考えている。自分が一番世界で大切、重要なのだと考えている。自身を生み出した主も自分の為の道具としか考えていない。


むしろ、何故自身を生み出しただけで主と名乗っているのか疑問だった。否、希望にとっては気に食わなかった。どうして他の奴等は自分に従わないのだ、と思っている。そんな男、十二狂典の中でも最も傲慢であり、自身を過剰評価し過ぎている男が希望なのである。


希望は自身の剣を振り下ろす。勢いよく自分の足元まで剣を下ろすと、飛ぶ斬撃が発生した。今の希望は怒りに染まっていると推測できる。平常心の希望ならば、こんな大雑把な攻撃はしない。受け止めやすい、避けやすい、反撃しやすいの三点セットを態々する訳が無い。


飛んでくる斬撃を、白い翼による超技量プレーで回避をしながら突撃をしていく。もちろん、一直線に突撃をしているので飛ぶ方向に斬撃が飛んでくる。しかし体を捻り、三日月型の斬撃を足場にする事で回避に成功をしている。それだけでは回避できないのもあるのだが、それはリファエルの剣による斬撃で弾いている。


近づけば近づく程、斬撃の乱発射は続く。量が多くなるだけなど、斬撃を足場にしてください、と言っているようなものだ。リファエルの速度は加速していく。夢想しているのは獅子状態の理玖。どんな魔法だろうと、圧倒的な魔力で道具へと変化させる。自分が絶対の王である、と思わせる考え、行動を模倣する。


『強者と言うのは、強さを持っている事だけでは無い。剛鉄の心を持ち、自己を信じ、信じない精神。全てを利用しようとする王の心構え』


昔、獅子状態で模擬戦をした時に言われた言葉セリフを思い出す。あの言葉を実践するかのように、飛んでくる斬撃全てを道具と認識する。自分を攻撃する為の道具では無い。この戦局を、自分有利にする為だけの道具だと認識を改める。


加速、加速、加速、加速、加速……加速をし続けたリファエルの速度は光速など、とうに超えており、希望に近づく事は造作も無い事であった。希望は近づかせない最後の抵抗として、斬撃を振るのだが、打ち破られる。魔力を多く纏った刺突に貫通され、腹から背中まで刺さった。


伝導天過衝撃舞ウィルピン・ショック


自身の剣を中心点とし、魔法を発動させる。この衝撃魔法は事前に方向を決めていたので、希望は地面に向かって叩き落とされる。希望が叩き落とされた地面は一面花が広がっており、希望が落ちた事で花弁が舞っていた。


叩き落とされた痛みに悶えながらも、反撃をしようと必死に立とうとしている希望が瞳の中に入る。リファエルはその光景を見た後、瞳を閉じ、白き翼を使ってふんわりと地上に降りてきた。花弁が散ったクレーターの地面に足を立たせる。


「何で、僕が……!こんな目に合わなくちゃ」

「分からのか。お前は間違えたんだよ。更生の機会なんか幾らでもあった。けど其れ等全てを殴り飛ばしたのはお前だろ。自業自得、つまり天誅ってやつだよ」

「ふざけるな、僕は世界の頂点に立つんだ…!こんなので止まって良い男じゃ無いんだ!……お前に使うのは惜しいが、使わないと死ぬ。だから奥の手を使わせてもらう」


希望は手をバチン!と鳴らす。叩いた手からは白色の光が漏れていた。その光に妙な感覚に襲われる。何故か攻撃したく無かった。変化が完成するまで見ていたかった。これはリファエルの考えでは無い。天使としての種の考え、つまり本能なのである。聖関係の種族であるから、こんな感覚に襲われてしまった。


自分の種族の本能を振り払いながら、希望に向かって駆け抜ける。首に向かって刺突をしようとする。その光が何なのか、そんな疑問が頭の中に広がっていくのだが、それを無視して命を奪おうとする。しかし、リファエルの狙い通りに命を奪う事は出来なかった。


白色の光は手だけでは無く、全身を覆い始める。その状態になってしまったからなのだろうか、剣が弾かれる。行動するのが遅かった、という後悔を抱きながらも、もし爆発が起きたら巻き込まれないように即座に離れる。


300メートル離れた辺りで希望が居るであろう場所から白色の柱が降臨する。堕天使以外は戦闘など無いこの平和な世界に、不釣り合いな魔力が周囲を埋める。冷や汗が流れる。天使として生きてきた中で一番の緊張感、焦りが心の中に生まれる。


リファエルは周囲を見渡し始め、警戒を露わにする。先程までもしていなかった、という事では無いのだが、警戒心を全開まで引き上げた、という事なのだ。魔力探知、瞳による視界捜索で此方に来ていないか探すが、来ない。あの位置から動いていない。何故動かない、という疑問を抱えていると、目の前から暴風が巻き起こる。


暴風が巻き起こった中心点を見ると、其処には全体的に黒く染まっているが少し白の翼を八対十六を広げ、禍々しい悪魔のような尻尾を生やしている希望が居た。驚愕を隠せていないリファエルの表情に思いっきり笑う。元の笑みよりも更に悪辣に笑う。生を、聖を生きている者からしてみれば嫌悪感を抱く笑だった。


現に聖を生き、生を生きているリファエルからして見れば、その笑いは嫌悪感を抱かずにはいられない。いや、その程度の問題では無い。リファエルが感じている嫌悪感は『此奴キライ!』などのアッサリとした嫌悪感では無い。今感じているものは心の底から受け付けない。これは生理的嫌悪感、とでも言うのだろう。


リファエルが生理的嫌悪感で顔を歪ませ、足を一歩下がる。その行動に対して希望は笑みを更に深める。そして笑みを深めた同じタイミングで地面を足に踏ませ、走る。自身が光速に動いても知覚できていたのにも関わらず、今回の希望の走りは分からなかった。一番遅い筈の初速ですら、いつ走ったのかが分からなかった。


どうしてこんなにも速く、という疑問が頭の中を駆け巡る。しかしそんな思考はコンマ数秒も無く、消し去られてしまった。腹に拳を当てられただけ。しかし威力は強烈そのものであり、全身に巡らせていた魔力が途切れてしまった。あまりのダメージに魔力回路がショートしてしまったのだ。


「終わりだね。安心して、僕が一杯可愛がってあげる」

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