第41話 未来と未来の為の戦争 9

リファエルは蹲る。希望の言葉に反抗をしたいと思う。しかし体がそれを許してはくれない。弱めの蹴りで痛めつけられる。理玖と出会う前と同じである。光が全くと言って良い程に見えておらず、真っ暗な闇しか見えていなかった。


瞳が絶望に染まってしまう。少し力強く蹴られた事で大きく吹き飛び、吹き飛んだ先にあった大樹に衝突する。痛みで涙が出てくる。果たしてこれは痛みのせいなのだろうか。思い出の塊である無名無法王冠の者達と二度と会えない、と理解してしまったから涙が出てしまったのかもしれない。


希望が近づき、髪を掴む。皆が褒めてくれた髪を、と怒りの感情が発生するのだが、すぐに霧散してしまう。どうせもう会えないのだから、と諦めの感情が芽生えてしまったのだ。希望が歩き始める。髪を掴まれた事での痛みは、絶望という感情で薄まっていく。


意識が闇に堕ちかけた時、リファエルの目の前には紅蓮の炎が広がっていた。紅蓮の炎はリファエルのダメージを癒やし、希望には攻撃を与える。炎は形作り、鳥へと変化した後に青空へと連れ去る。見覚えはある。あり過ぎて泣いてしまいそうになってしまう。


「絶望、するんじゃ無いよ。昔に言った事忘れた?心の底から助けを求めていたらどんな状況でも助けに行くって」


理玖の言葉で瞳に溜まりに溜まった涙が溢れる。紅蓮に燃え盛る毛を掴みながら泣く。そんな情けない姿を見せたとしても、理玖は責めようとせず、何も言わずに待つ。その涙が収まるように。飛んでくる魔法を回避しながら。


離れていても、心のすぐ側に居てくれる。そんな安心感に心の底から暖かくなれる。瞳に溜まっている涙を腕で拭き取る。絶望という心の鏡を曇らせていた元凶が壊され、晴れる気がした。希望という一筋の光では無い。闇など少しも無く、埋め尽くすは圧倒的な光。


「……出来るかな?リファエル」

「エンちゃん、私の事はリファって呼んで。そう呼ばれたら、私はできる気がするから」


理玖はその言葉に大きく目を見開かせた後、優しく「リファ」と呟く。たった一言、愛称を呼ばれただけ。それだけなのに心は燃え盛ってしょうがない。熱く、激しく、豪炎の如きに燃え盛っていた。鳥である理玖の背中から飛び降りる。


紅蓮の炎がリファの体に巻きつき、桃色の光が覆う。希望の時のように天空に柱が突き抜ける、などでは無く、桃色の球体が肥大化していた。そして桃色の光がビー玉サイズに変化してから数秒後、人型を形成する。桃色の長く流しているロングストレートの髪に黄金の瞳、緋色の瞳を持ち、10対20の翼を持っている天使が降臨していた。


リファは遅めに降りてきた。ふんわり、という擬音が聞こえそうな位にはゆっくり降りてきた。そんな速度とは裏腹に、着地すると同時に桃色の光が天空を貫く。


瞳を開き、自身の魔力を開放する。周囲に拡散していたのは希望の魔力であるが、今大半がリファの魔力に変化した。瞳から感じられる情報としては、希望を絶対に殺すという意志が見られた。希望はその意志に恐怖を見せるも、魔法を展開、放射する。強化に体が馴染んでいない内に片付ける、という考えのもとだろう。


それが正解か、と言われたらNOと答えるだろうが。確かにリファ一人のみならば、その策は最善だっただろう。しかし、今リファのバックには【紅蓮の魔王】エンドが居る。強化をする時に炎を巻きつけていた事で、体に即馴染んだのだ。


放射された魔法を手刀で切り裂く。切り裂かれた魔法はその場で爆発し、リファの冷徹な顔を良く写している。爆発を背景とし、走り始める。希望が強化をし、リファが反応できていなかった時と同じくして、強化をしたリファの速度に希望は反応ができていなかった。


魔力を纏っての蹴り。リファにとっては通常の攻撃の筈だった。しかし新たな高みに昇ってしまったリファの攻撃なのである。通常攻撃の範疇で終わる筈など無いのだ。空間が歪み、希望を吹き飛ばす。ただ吹き飛ばし、戻ってくるのを待つだけでは無い。希望が障害物に当たって止まる前に回り込む。


首根っこを掴んだ後、地面に力強く叩きつける。首根っこを掴んでいる手を背中に回し、魔力を流す。使おうとしている技術は簡単、魔力を使用して簡易的な衝撃波を起こそうとしているだけである。それが簡易的、で収まるかどうかは、疑問そのものだが。


エデンの地面に亀裂を作り、クレーターを作る。息絶え絶えになっている希望にトドメを刺そうとするが、最後の足掻きなのか、何なのか。魔法を展開し、放射しようとしている。流石にこの距離で喰らうのは不味いものがある為、一度退く。放射された魔法は追尾型魔法であり、リファを追いかけていた。


リファはどれだけ追尾してくるのか、を確かめる為にバク転をして避ける……が、地面に突き刺しても貫通して追いかけてくる。途轍もない追尾技術だ、と認める。先程までは認めたくなど無かった。しかし、もうどうでも良くなってしまったのだ。乗り越えてしまったから。


「これで終わらせる」


天華星使エリュフォ・グラニール


追尾型魔法を全て掻き消し、希望の身を滅ぼした。


「あっさりとした最後、どうだ?お前には屈辱だと私は思うぞ」

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