第42話 未来と未来の為の戦争 10

灰色の長い髪をツインテールとしており、顔立ちも体もとてもシャロンと似ている少女、フェナが居た。フェナが見据える先には偏愛が立っていた。何秒経っても両者は動き出す事など無かった。相手を観察しているのだ。


同じタイミングで両者は動き出す。拳と拳が触れただけ、それだけなのにも関わらず、辺り一面が灰色と黒色の光で染まる。そしてコンマ数秒も経たず、その光は晴れる。その光が晴れた先には、回し蹴りを与えているフェナの姿があった。


腹に回し蹴りを与えられた偏愛は、蹴りを喰らった直後にフェナの真横に移動をする。今度は此方の番だ、と言わんばかりに蹴りを喰らわせる。中々に強烈な蹴りに少し吹き飛んでしまったが、空中で何回転かする事で自慢にうまく着地する事ができた。


フェナとしては体感した事が無い技術の為、推測となってしまうのだが、魔力のゴリ押しによる簡易転移だろう。この推測の証拠として、偏愛が元々存在していた場所には大量の魔力で溢れている。これだけの大量の魔力を放出したのだから、魔力切れは、と感じるが十二狂典程の魔力を持っているのならば問題ないのだろう。


偏愛は少し吹き飛んだのをキッカケに、魔法を連射してくる。質より数を求めたのだろう。これ等を避けなくてはいけない、という事実に精神的ストレスを実感する。昔の戦闘で性格が悪い理玖みたいな魔法に、昔の事を思い出す。


フェナは指で銃を作り出し、方向性を持たせて放射をする。方向性を持たせた名も無き魔法は、此方に向かってくる連射された魔法を掻き消し、偏愛に向かって突進をする。もちろん、偏愛はそんな攻撃をマトモに受ける訳など無く、魔法を蹴り上げする事で魔法を上に上げた。


それが当たらなかったとしても、フェナ的にも何の問題でも無いのだから。蹴り上げたタイミングを見計らって偏愛の側に移動をする。避けられないように、零距離の超至近距離、できる限りの魔法展開、放射の速度を極限にまで高めた。これだけの条件が揃っており、偏愛が避ける事など、できなかった。


獣王ノ欠片ワイルド・ピース


獣王という存在を幻視してしまう圧倒的な魔力出力。魔法が零距離で発動した為、元々強烈な威力弾が更に強烈となって偏愛を吹き飛ばしていく。偏愛への攻撃はそれで終わらず、吹き飛んでいる方向に向かってフェナも走り出す。流石にこの距離は遠い。刻王衆で24刻と呼ばれているフェナだったとしても、間に合わないだろう。


だから、フェナは奥の手を使う事にした。刻王衆にのみ許された力。刻王衆にはスキルが二つある。フェナならば、スキル『支配管理』とは別のスキルがある。もう一つのスキル、それは『停止デルエンタ』。そのスキル効果は全てを停止させる。それは時間という概念すら止める。


ノーモーション、指を、手を、足を、一切動かさずに時を停止させた。刻王衆の一番の厄介なポイントは此処だ。ノーモーションで発動できる為、どうしたら時停止を発動させるのかが分からない。魔力の起こりも、このスキルは極小の魔力しか使わない為、感知も難しい。


時停止の可能停止時間は魔力が尽きるまでの無限。敵達の救いとしては、刻王衆はあまり長時間の時停止は使用しない、という点だろうか。時停止を行い、動いている間は体の感覚がおかしくなってしまう、という要素があるから長時間しないのだ。


少しでも長続きさせない為に、速度を加速させる。勢いよく走り、跳び上がる。その跳び上がった先には偏愛が居た。吹き飛ばされている偏愛が居た。そんな偏愛に向かって拳を振るう。脚を振るう。1発1発が強烈なのだが、それを何百発も与える。


フェナは時を解除する。丁度1000発目が終わってから時を解除した。時停止の間、攻撃を与えられまくっていた偏愛は血を吐きながら勢いよく吹き飛んでいた。正確な本数は分からないのだが、肋骨は何本か折れているだろう。骨が折れる事など、中々無い。強くなればなる程、自身が傷つく機会は薄まっていく。


十二狂典は生まれながらにして強かった。だからフェナに肋骨を折られて動揺しているのだ。フェナはもう限界だろう、と感じて歩みを進める。しかしそんなフェナの予想とは裏腹に、偏愛は立ち上がった。骨が折れている状態など、中々立てるものでは無い。


身近な人物、理玖が立ち上がった人物に当たるのだが、あの魔王は除外する。魔王としての罪を全部背負うと決め、魔王になるという覚悟を持っている男なのだ。あれ程の覚悟はイカれているとしか言いようが無い。


偏愛は声にならない声をあげる。悲痛そうな声をしているのにも関わらず、その声には闘志が含まれていた。呆れる程の強い闘志にため息を吐きそうになってしまう。しかし、フェナは突如として笑みを深めた。その強い闘志に興奮を隠しきれていない自分を自覚したからだ。


フェナは、刻王衆の皆が自身を戦闘狂だと評する気持ちが分かった気がした。確かに戦闘狂である。強い闘志をぶつけられ、興奮しているのは戦闘狂以外何者でも無いだろう。知らなかった自分の裏側に、フェナは嫌悪する事無く受け入れる。むしろ、その裏側はフェナにとっては心地良いとも感じていた。


その闘志に体を任せ、偏愛に向かう。刻王衆の24刻としての身体能力をフルに活用し、超速と言える速さで突撃をしていく。どうしても獅子状態、紅蓮状態の理玖と比べてしまうので、見劣りを感じぜざるおえないが、これが今可能な全力という事で納得をする。


骨が折れている偏愛と、万全と言っても良い状態のフェナでは大きく差が生じる。しかし、偏愛は沸る闘志と魔力でカバーをする。負傷している状態で此処までのパワーを出されている事実に驚愕をしつつも、歓喜の感情に包まれる。熱く、燃え盛る闘志というのは、フェナの心を燃やしていた。


飛んできたフェナの拳を、偏愛は手で受け止め、力強く握りしめる。フェナの想像以上の握力に驚きながら、腹に蹴りを入れる事で手を離させる。偏愛は痛みで涙目になっているのだが、飛んできた足を掴み、投げる。


先程よりも偏愛は更に力が強くなっていた。フェナは驚いてばかりだ。しかし、永遠の年を生きたエルフと呼ばれているフェナだとしても、これは予想外なのである。これ程までに力が急上昇している現象など、頭の中には存在していなかった。


何故そうなっているのか、その現象についてフェナの心にある探究心が暴れ出しそうになったのだが、今はこの闘志に集中していたい。自身に対している偏愛に目を向けたい。その心で探究心を打ち消していく。


フェナは吹き飛びながら回転をし、体勢を整えてから空気を蹴る。他の幹部メンバーのように、綺麗に空気を蹴る技術を持ってはいない。だからフェナが空気を蹴ると、其処にあった筈の空間が歪み、風が巻き起こる。


フェナが偏愛との先程の攻防をして分かった事がある。偏愛は相手の動きから未来を予測している。今の偏愛からは間に合わない速度で動き、攻撃しているのにも関わらず、魔力で防御をしているのだ。それも攻撃が直撃する何秒も前から。攻撃する前から魔力を一部分に纏わせているのだ。


ならば、と魔力防御が関係の無い攻撃をすれば良い。全身に魔力を纏い、空中から突進を始める。大量の魔力で環境を崩壊させながら進み、直撃した。








「僕様、最高に楽しめたよ。ありがとう」


塵と化した偏愛に、フェナはサムズアップをした。

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